あの子は自由人 | ナノ

ひとつ夏が終わる

 日射しが強い。ダウンも終わらせて観覧席に戻ると、帽子を深々と被った苗字はひと言俺たちに「お疲れ」とだけ言った。何故か彼女は笑っていた。
 決勝で、しかもあと一つってところで負けた。自分が情けねーや。はあ。もう。

「あれ、幸村くんの試合は?」
「青学のチビちゃんがトラブってるみたいだね」

 それでも何とか、最後の、幸村くんと青学のチビとの試合は行われた。そして、


 ………………敗けた。



「残念だったね」

 苗字はなんで、こんな、適当な言葉で全てを片付けられるんだろう。もう、腹立つとか通り越して、確かに、と笑うしかなかった。三連覇のためだ、と、ずっとずっと練習して、勝って、勝ち続けて、最後の最後で負けてしまった。残念、としか言いようがないわ。的確すぎる言葉。くそ、悔しい。

 苗字は真田の言葉も、部長の幸村くんの言葉も、黙って聞いていた。存在感をなるべく消して。自分はこの試合の"勝ち"も"負け"も、まったく関係がない、とでも言うように。


 だけど、最後に、彼女が絶えず半泣きだった赤也の頭をぐしゃぐしゃっと掻き回したのを見たとき。なんだかんだ彼女もいろいろ思うところがあるんじゃないかと感じた。
 いつもと変わらず我関せずを貫く優しさ?それもあっただろうけど、赤也に格別優しくしてる時点で、これまでの違いなんてバレバレじゃないか。

 鼻の奥がツーンとした。…今は泣かないけどさ。
 だけど、なんか、余計辛くなる。俺たちの夏が終わったんだって、嫌でも解らなくちゃいけないんだって。

 

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