あの子は自由人 | ナノ

君、友達、理解

「ケーキたらふく食うぞー」
「おー食いまくるぞー」

 今更気付いたけど、苗字は甘いものを食べに行くと言えば、来てくれる…気がする。前にあいつの気分屋は掴めないとかみんなで話したけど、もしかすると柳より先に俺はそこに行き着いたんじゃないだろうか。なんて、ちょっとだけ嬉しい。
 そんなわけで、夏休みも始まって練習に練習漬けだった日々にようやく空いた穴。気分転換にケーキバイキングへ行こうと誘ったら、苗字はしっかり食いついた。俺自身もかなり久々だし、苗字は冬にジロくんもいたホテルバイキング以来だというし、二人ともテンションは高い。ケーキもそうだけど、夏だとアイスとかまじ美味いし。至福である。

「みんな来れば良いのによ」
「こんなに美味しいのに」

 一応、みんなに声もかけたけど、「おまえとケーキ食べに行くと食べてなくとも気分悪くなる。貴重な休みをそんなんで潰したくない」みたいな返答が一様に返ってきた。酷くね?
 まあ、苗字と二人だけなのはこちらとしても好都合なのだけど。

「ずっと、言おうって思ってたことがあんだよ」
「はん?」

 苗字が箸休めコーヒーゼリータイムに突入し、落ち着いた頃。本題に入ることにした。1ヶ月くらいずっとモヤモヤしてたことを今日、ようやく、言う。

「一月前、赤也が苗字を殴った時、俺も真田が言うようにすごい腹立ったんだよい」
「ほん」
「あの状況なら苗字の行動は仕方ないってわかってんのに。………本当に悪い」
「気にしらいれひいろり」

 あれからも今まで通り、適当に仲良くやってるし、本当は気にしなくても構わないってのはわかってる。だけど、苗字はああいう奴だって、受け入れるんだって決めた途端に揺らいだ。仲良くなりたいって考えたそばから、苗字を型にはめようとして、頭は拒絶した。何より、そんな自分に腹が立った。
 そして、この先のことを、ちゃんと言いたかった。

「俺は、苗字にすごい支えてもらってると思う。感謝してる。苗字のこと、すごい奴だって尊敬もしてる」

 そんなに褒めても何も出ないよ、とか言われると思ってたけど、彼女は黙って聞いていた。

「だから俺、苗字と、ちゃんと仲良くなりたい。理解したい」

 他でもない俺が、苗字の一番の友達として、奇人変人な彼女の全部を理解出来るようになりたい。ただの理解じゃない。納得いかなくても、それが彼女だって解りたい、受け入れられるようになりたい。

 苗字は吹き出した。いや、自分でもだいぶ恥ずかしいこと言ってるってわかってんたけど。

「友達って"なろう"って言ってなるものじゃないよ」


 結局何の答えももらえなかったけど、彼女は俺の言いたいこともちゃんとわかってるんだと思う。なんとなく、そんな気がした。

 俺は、苗字を理解できるんだろうか?

 

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