あの子は自由人 | ナノ

前にいる

 最後に真田が負けた。立海が敗けた。いろいろ思うところはあった。けど、それよりも今は行かなきゃならない。無敗を守れなかった。だけど、この重い脚には向かわねばならない場所があった。

「苗字は行かないのか?」

 勝とうが負けようが相変わらず涼しい顔をしている苗字に尋ねるが、返答は簡潔だった。

「最後までお仕事してます」


 あれだけ気にかけていた幸村くんの傍にいたいと思わないのか。まあ、彼女なら"私がいたっていなくたって、どうせ変わらない"と答えるのだろう。

 苗字は笑って手を振り、急ぐ俺たちを見送った。


 結局、苗字は病院に来なかった。他の選手らの引率や、道具を学校に持って帰るとか、マネージャーの責務を滞りなく果たしたらしい。さすがである。


 彼女自身、何の支えにもなっていないと言うが、決してそんなことはない。俺たちが落ち込んでいようと、彼女はずっと前にいる。何でか彼女は俺たちの前で、飄々と俺たちを待っている。
 それがどんなに俺たちを安心させたのか、俺たちの支えになったのか、やっぱり自分じゃわかんないものかな。
 本当に、本当に苗字がいてくれて良かったと思う。本当に。たぶん、誰もが思ってる。

 なんて、こんな恥ずかしいこと絶対口には出来ないけど。



 とりあえず今は、全部なんとかなる気がする。幸村くんも直に帰ってくるし、まだまだ夏は続くのだ。まだまだ、俺たちはやってやる。

 

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