「あ、偵察の人じゃん」
「おー青学ー」
大会の会場でスポーツドリンクの入ったジャグタンクを苗字と二人で運んでいる時、ばったり会ったチビ。彼女は俺に断りを入れて荷物を下ろす。
青学の、しかもレギュラージャージを着るチビと彼女は知り合いらしい。チビが"偵察"と呼んだからには、やっぱりこの間苗字が青学に行った時に知り合ったのかもしれない。
「これから試合?」
「まあね。また偵察?」
レギュラーなら三年か?いやでもこの身長で三年はないよなあ。どう見たって一年…あ、そういや一年のレギュラーいるんだっけ。それにしてはクッソ生意気。彼女は全然気にしてないみたいだけど。なんとなく、ジロくんと接する時の優しい雰囲気を思い出した。
「違うよ。青学の試合と同じ時間にうちも試合あるし」
偵察として他の部員を見に行かせたりしてるけど、チビと仲良しの苗字は行けそうにない。ちぇ、残念、なんて言うチビに、彼女は笑った。
「じゃあ、試合がんばってね。おチビちゃん」
ム、とわかりやすく不機嫌になった。
「それ、止めてくんない?」
私より低いんだから良いじゃない。先輩からもそう呼ばれてるんでしょ。そう言われてもチビは返事をしない。クッソ生意気。赤也より生意気じゃね?
だけど苗字はそれを見越した上で笑った。他校でも人をからかうことは止めないようだ。しかし赤也に対するそれとは次元が違う。…優しい。
「越前リョーマくん」
赤也は名前で呼んでもらえないのに。あ、俺たちもだけど。他校だと優しくしてもらえるのか。ちょっと羨ましい。
「うちとあたるときはよろしくね」
手を振って別れたあと、またジャグタンクを持ち上げた。
「なつかれてんのな」
「生意気だけど、切原より断然可愛げあるよ」
やっぱりそういう視点なんですね。とはいちいち確認は取らなかったが、赤也がものすごく不憫に思えた。
「それに、すごい子だし」
「………ふーん?」
今大会で青学が立海とあたるとすれば決勝、ということになる。このまま青学は勝ち残ってくるのだろうか。まあ、どちらにせよ立海が優勝するんだけども。
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