あの子は自由人 | ナノ

勝利と彼女

 俺たちは勝ち進まなければならない。俺たちは負けてはならない。…その言葉を胸に、順調に県大会を勝ち上がった。

「こんなに面白くない大会、生まれて初めて見た」
「面白くなくとも、勝ち続けることに意味があるんだ」

 苗字がそんなことをぼやくくらい、俺たちは簡単に県大会優勝を手に入れた。周りは勝利にわいているが、県大会なんてもともとただの通過点だったし、レギュラー陣は相変わらず難しい顔をしている。勝ち続けて幸村くんを待たなければいけないこと。まだまだ俺たちの役目は重いこと。いろんな想いが胸にある。だけど、やり遂げる。

 決勝の前の日に、こんな話を苗字とした。

「苗字は、試合とかあんまり興味ないのな」
「うん」

 何のためらいもない同意。

「というより、立海の"勝利"に興味ない、って感じ」

 それならマネージャーの仕事なんてやってられないことはないのだろうか。元々テニスに興味はなくとも、一年一緒に練習に付き合ったりしてるのだから、何かしらの情があってもいいはず。なのに。

「もちろん、立海が勝てるよう仕事はしてるつもりだけど」

 苗字の仕事は完璧だ。彼女がいるからこそ心地よく練習できたし、いろんな能力を高めてこれた。けれども、それは彼女自身が勝利を望んでしていたわけではない、と。

「"なるようになる"って、他人事みたいに傍観して、…どうしようもないの」

 勝つ時は勝つし、負けるときは負ける。そんなことはわかってはいても、だからといってそこまで客観的に見ることができるのか。そして、それを彼女の性格だといって、簡単に割り切れるだろうか。

「選手のメンタル面をフォロー出来ないところは、マネージャーとして失格だよなあ」


 苗字に感じる微妙な距離感。
 諦め、ではないんだろうけど、同じような何かが彼女にはあって。それが彼女なんだとわかる半面、無性に寂しいし虚しいと感じる。

 ただ、今の俺は、理解はできなくても、それが彼女なんだと全部受け入れたいと思ってる。なんというか、うまくは言えないんだけど。とりあえず、最後まで勝つってことで。

 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -