あの子は自由人 | ナノ

見えなくて遠い

 苗字が学校を休んだ。

 柳から来たメールは、いつもなら大して気にもしないけど、今回ばかりは違う。彼女が学校を初めて休んだ。しかも、昨日の今日だ。他の奴らは、彼女が青学に偵察に行った帰りのことを知らない。俺が車に接触しかけた後の彼女の様子。

 …結局、気になって彼女の家まで来てしまった。もちろん言っておくと、先に連絡済み。


「やっぱ風邪じゃねえじゃん」
「見舞いの品だけ置いて、帰ってもらおうかな」
「おーい」

 案外、元気そうで安心した。早速お見舞いに買ってきたシュークリームを取り出し二人で食べる。期間限定のバナナキャラメルホイップシュー。シューにする意味もわからないけど、とりあえず美味い。

「あー昨日のこと聞きたいんだよねえ」
「言いたくねえなら良いけど」

 シュークリームを頬張ってはいたが、結局聞きたいのは昨日のこと。今日休んだこと。もちろん昨日の苗字を見れば、簡単な話でないことはわかっている。が、それでも知りたい。
 苗字は2個目のシュークリームに手を出す手を止めた。

「昔事故ったことがあってね。今でも夢に見るくらい、トラウマみたいで」

 余程大怪我だったのだろうか。それでなくとも車が迫って来るだけで、命の危険を感じるだけで恐ろしいのだ。俺も、昨日は苗字に助けられたが、身体が一瞬で冷たくなった程だ。

「そんだけ」

 そんだけ、とは軽く言うけど、いつも冷静な彼女があれだけ取り乱すのだから、かなり大きな心の傷であるはずだ。まあ、本当のところは見えないし、わからないんだけど。

 いつも完璧な彼女の、知らない部分を垣間見れて。少しだけ嬉しいけど、複雑でもある。何も隠してなさそうに見えて、どれだけのものを苗字は隠し持っているんだろう。どこまでいけば、彼女を"知ることができた"と俺は納得できるんだろう。

 

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