「私も青学に行きたい」
少し前に赤也が青学に行った。あいつは本当にバカだから偵察する気もてんでないし、何のためにいったんだかわからない。ただ妙にご機嫌で、みんな気になっていたところで、苗字のこの発言である。
「青学が気になるか」
「うん」
真田は青学のこととなるとちょっとうるさい。普段しっかりテニス部に貢献してるだけあって苗字の言うことも無視出来ない。とあって、本当は別の中学へと足を運ぶはずだった彼女の偵察の行き先は青学へと変わった。
「待った?」
「待った。けど、美味いジェラート屋あったから許す」
「何それ聞いてない」
俺も同じく東京の、まあさして相手にはならなさそうな(一応都内では)強豪校に偵察に行っていたから、どうせなら帰りに落ち合おうと誘った。予定より苗字が遅れて来たのは、バスを1本乗り過ごしたらしい。
「どうだった?」
「んー楽しかった」
…偵察は遊びじゃないぞ。とは言わなくてもわかってるだろうに。
「すごい練習でもしてたの?」
「練習は普通。立海と比べれば…ね」
撮っても多分何の意味もないから、ビデオも回さなかった。じゃあ、本当に何で行ったのかわからなくないか。だけど、それでも彼女は満足げに笑っていた。赤也と同じように何かを、彼女なりに見つけたのかもしれない。
「今日行って良かった」
「へええ、立海の脅威になりそうな奴でもいたのかよい」
「どうだろうねー」
苗字が何を感じようが、俺たちは勝ち続けるしかない。苗字が立海の常勝に興味がなくても。それでも勝ち続ける。
と、改めて考えた時だ。
普段声を張り上げない苗字が、俺の名を焦ったような声で呼んだ。
「丸井!!」
彼女に思いっきり、引っ張られた。
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