部室には珍しく俺と仁王だけだった。ちょうどいい機会だ。最近気になって仕方なかった疑問を呈してみる。
「なあ仁王、聞くけどよ」
「何じゃ」
「やっぱりおまえって苗字のことが好きなの?」
いや、まあ答えにくいんならいいんだけど。あんまり関わりのない女子が好きになった、と言うのは友達同士で言い合ったりするのも良いんだけど、相手が相手だから言い難いものもあるよなあ。
仁王はユニフォームを着る手をちょっとだけ止めたけど、すぐに動き始めた。
「そういうんじゃなか」
脱いだ制服をたたみながら、今のところは、と小さく付け足したのを、もちろん聞き逃しはしなかった。
「今は?そうなる予定でもあんのかよい」
少しの間、考え込んだ仁王。
「ならないとは言い切れない、程度じゃがのう」
幸村くんが冬休みに言っていた"自分の周りにいる面白い女子は苗字だけ"って話を思い出す。確かに、今までそんなことを考えていなかっただけで、一番可能性があるのは苗字だ。たぶんそれは仁王だけじゃなく、俺も、他の奴らも。
仁王はこんなことまで客観的に分析が出来ているんだな、と本人には言わないが関心した。本当に中学生らしくない奴。そんな恥ずかしいことを赤也にでも言ってみたならば、「そんなこと有り得ないっス!」と全力で否定するだろう。あくまで可能性の話なんだから。…なんだか柳みたいなこと言ってる。
「誰かが落ちるのも時間の問題ってか」
「まあ、マネージャー次第じゃのう」
マネージャー自身が"恋愛"とかそういうものに触れたくないと思っている節があるから、なかなか簡単にいかないような気もする、と、仁王はケラケラ笑って言った。
仁王が、苗字と手を繋いだり、かまってもらいに行ったりするのは、やっぱりどこかで本気になってもいいと思っているからで。逆に、本気になりたいから苗字に打ち解けてもらおうとしているのかもしれない。
じゃあ、俺は、何をどう思っているのだろう。
考えてみるけど、結局結論は"何も考えていない"である。まあ、普通そんなもんだよな。
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