中学二年、最後の学期が始まる。とはいえ、部活はちょっと前に始まっていたし、部活の延長でだいたい一緒にいるのは仁王と苗字である。相変わらずな日常が始まろうとしている。
しかし、始業式が終わってすぐにクラスの男子数人に引き留められた。その用件は…
「なあ、仁王と苗字さんって、その、付き合ってんの?」
かなり予想外だった。
「隣のクラスの奴がさ、初詣行った時に見たんだってよ。仁王と苗字さんが手繋いで歩いてるところを…」
あー、あれな。俺も見たときかなりビビったから、そういう噂が立っても仕方ないよなあ。とりあえず、あの時の事情を説明する。
まあ、いくらあの人混みでも中学生の男女が手なんて、普通は繋がないんだけど、仁王だったらやりかねないとその場は丸くおさまった。
だが、しかし。
教室に戻ると、何故か噂の苗字はとっても不機嫌そうで、仁王は仁王で苗字の前の机に座ってニヤニヤしてる。何だ?
「丸井、ちょっと頼まれろ」
「な、何だよい」
「これをどっかに持って行って欲しい」
これ、というのはもちろん仁王のことで、当の本人はマネージャー酷いぜよー、なんて棒読みで返す。仁王って、苗字の機嫌を悪くするのが上手くなったよな。いや、そんなこと言ってる場合じゃなくて。
「さっき、仁王と付き合ってるのかって仁王ファンの子に聞かれて。『有り得ない』って否定したんだけど。それからずっと嫌がらせのようにこの調子」
「私とマネージャーの仲ではありませんか」
こんなんじゃ、トイレで水が降ってくるのも時間の問題だなあ…と、呟いたのも納得の、教室の外からの眼光。ただ、その眼光が仁王のファンのものだけではないってことも忘れてはいけない。
「仁王は刺されたりしてな」
「さすがにそこまでは」
ないじゃろ、と、言おうとして、仁王が動きを止めた。教室のざわめきも一瞬でおさまる。
皇帝真田の登場である。
………何で真田が?
真田はこっちに近付いて来る。いつの間にか仁王の姿が見えなくなっていた。あー、逃げたのか。
「珍しく苗字からメールが来ていると思えば、『助けて下さい』といった謎の文面でな」
何かと思って見に来ればこんなことか、と深い溜め息。でも、仁王を追っ払うにはこいつが効果てき面だったってわけだ。苗字も良くわかっている。
「真田、ありがとう」
次からは自分で何とかするから、とはいったが、真田をこんなふうに扱えるのも、たぶんそういない。どうせならもっと使ってやってもいいんじゃないかな。
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