あの子は自由人 | ナノ

珍しいことをしない

 普段、ほとんどメールが来ない人物からメールが来た。本文は簡潔で、どうやら一斉送信らしい。

『初詣に行くよ』


 揃ったのはテニス部のレギュラー陣と、その全員を呼んだ苗字。今年初めての顔合わせだったから、新年の挨拶を各々済ませ、境内に入りお参りする。
 それぞれ長々と、赤也などは唸りながら祈願をしているようだが、隣にいた苗字は早々と切上げて、他が終わるのを待っていた。

 おみくじをひいて盛り上がる赤也たちをよそに、彼女はふらーっとお守り売り場へ行く。人混みもあるからと、あっちはジャッカルと柳生に任せ、柳と俺は苗字について行った。


 苗字が滅多にしないメールで全員を呼び出したのは、もちろん幸村のためだ。先日、幸村に初詣のことを知らせると、本当に愉快そうに笑っていた。最後に「さすが苗字だねえ」と言っていたから、どうやら幸村がそう仕掛けたのだろう。彼女は俺とはまったくと言っていいほどだが、幸村とは頻繁にメールをしているようだから。

 彼女は冷酷だと言われることが多いが、幸村と連絡を取っていたり、こうやって幸村の無茶な頼みも何も言わずに聞き入れる優しさが、実はある。気付いたのは遅かったが、今では本当に感謝している。

「苗字」
「あん?」
「ありがとう」

 じーっとお守りを選ぶ苗字に小さく感謝の言葉を述べると、いかにも変なものを聴いたという微妙な顔で俺を見た。

「何、気持ち悪い」


 そりゃ俺だって、こんなことを普段から言わないし、言うつもりもないが、それにしたって気持ち悪いはないだろう。酷い話ではないか。…うむ。

 話しを聞いていたのか、柳が声を殺して笑っていた。どいつもこいつも、失礼な奴らだ。



 

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