あの子は自由人 | ナノ

彼女も一応、女の子

 廊下が突然騒がしくなった。
 待ちに待った彼らが来る。


「部長!来たっスよ!」
「あけましておめでとうございます」
「大した見舞い品はないんじゃが」
「りんご飴とベビーカステラは持ってるけど?」
「邪魔するぞ、幸村」

 弦一郎や蓮二はよく来てくれるけど、他のレギュラーはなかなか来れないから。やっぱり全員の顔が見れるのは嬉しい。

「はい、頼まれてたお守り」

 一番最後に部屋に入ってきた彼女は、買ってきたばかりのお守りを俺に手渡した。『お守りと他の奴ら、お願いね』と数日前にメールをした勝手なお願いを、このマネージャーはちゃんと実行してくれた。


「あと、あいつらから」

 もうひとつ取り出したのは、真っ赤に"愛"と刺繍された可愛いお守り。丸井や赤也らが後ろでにんまりと笑っていた。

「綺麗な看護士さんとかいたら、今のうちに仲を深めるのもいいんじゃないかって」
「んー。と言われても、今のところ興味のある女の子といったら、苗字くらいだなあ」


 病室が静かになった。


「仁王先輩といい、幸村先輩といい、何なんスか!?」

 仁王が何をしたのかはわからないけど、何もそんな顔面蒼白で驚かなくたっていいんじゃないかな。この中で一番冷静、というか何も気にしていないのが当の本人だなんて。

「みんなだって自分の近くにいる面白い女の子なんて、苗字くらいしかいないでしょ」

 それが、友達としてでも、部活のマネージャーとしてであっても、このお守りに頼りたくなる恋愛感情であっても。今の俺たちには彼女が一番近い。
 どうやらその言葉にみんな納得がいったらしく、それ以上何も言わなくなった。が。

「男子中学生なんだから、もうちょっと他の女の子と付き合いなよ。もったいない」

 何故か彼女が呆れていた。まあ、ここしばらく誰にも浮いた話がないっていうのも…。現状が現状なだけに仕方ない気もするんだけどね。

 しかし、苗字は何の興味もなさそうだけど、いずれはこの中の誰かとくっついたりするんじゃないかな、なんて楽しみだったりする。どうせ、遠い未来の話なんだろうけど。

 

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