※捏造ネタ
行き帰りにマフラーが欠かせない寒い日が続く。
部活帰りの、駅のホーム。
幸村くんが、倒れた。
救急車で幸村くんが運ばれ、とりあえず真田が一緒に乗って行って、俺たちは柳らと幸村くんの運ばれた病院まで急いだ。
何が何だかわからない。
どうすればいいのか。
何を考えればいいのか。
とりあえず、病院の中で、幸村くんがあの閉じられた部屋から出てくるのを待っているしかなかった。誰も何も言わない。もう、不安しかなくって、何もわからない。
しばらく時間が経ってから、かつかつとひとつの軽い靴音が近付いてきた。顔を上げたら、苗字だった。まだ制服のまんまで、鞄とコンビニの袋を提げて、そんでやけに落ち着いた無表情。
「ああ、俺が呼んだ」
柳が静かに言った。
苗字は来る前に買ってきていたらしいジュースやらコーヒーやらを、それぞれに渡して、みんななんとなくそれを受け取って、口にしたりしなかったり。それから彼女が空いたところに腰をおろして、ふう、と息を吐いたのを聞いた。
彼女は何故、こんなにも落ち着いているのだろう。
医者に呼ばれていた幸村くんの家族に話を聞きに行っていた真田と柳が戻ってきた。
「意識が戻ったわけではないが、とりあえず状態は落ち着いているようだ」
このまま詳しい検査もあるから、しばらくは入院することになる、と。
一応、今のところは大事でなくて良かった。けど、あんな苦しそうな幸村くんが、……。不安感、喪失感、絶望感。よくわからない感情がないまぜになって、自分自身でも何がなんだかわからない。わからない。つらい。
「じゃあ、みんな帰るよ」
無情にも言い放った苗字に、ここにいる全員が、このまま帰りたくない、なんて思ったことだろう。だけど彼女は促すように俺たちひとりひとりを見る。誰もうなずくにうなずけず、動きがなかった。
「俺、帰りたくないっス」
赤也が正直に言う。だけど、苗字は冷静に返した。
「親御さんが付いていらっしゃるし、幸村は大丈夫。みんな、だいぶ混乱してるみたいだし、ゆっくり休んだ方がいいよ」
確かにそうだ。精神的に参っていて、冷静に何かを考えることができない頭。…だからって苗字は何故そんなに落ち着いていられるのか。
「アンタは何でそんなに、冷静なんスか」
赤也のその問いは、嫌味か、純粋な疑問なのか。
「じゃあ、切原は、私にどうして欲しいの?」
今までで一番冷たい声。
誰もその後に言葉を続けることができなくなった。
・・・
※幸村の病気ですが、この話では12月初旬ほどの発病として取り扱っております。原作とはかけ離れた個人の捏造でありますので、ご了承下さいませ。
← → ▼