あの氷帝から練習試合の申込みがあった、と。たぶん、この前会った芥川が関係してたりするんだろうな、なんて真田の話を聞きながら思う。まあ、そろそろ大会に向けて本格的に動き出す時期だし、多少手応えのある学校との練習試合も良いんじゃないかな。
「私も、行くんです?」
いつもあれだけ冷静な苗字の反応が、珍しくおかしかった。真田もその彼女の変な言動に顔をしかめつつ、かろうじて当然だ、と返した。
一応問題もなく話はまとまったかに見えるが、やっぱり彼女が変だ。なんというか、そわそわしてる。何だろう。昨年ちょくちょくあった練習試合では、特に変わった様子もなかったし、氷帝に何かしらあるのだろうか。などとジャッカルと話し合ったが検討もつかない。さっぱり。謎。
当日の苗字はいつも以上に仕事に没頭しているように見えた。俺の試合も、見物だった真田と跡部の試合も、後輩の練習を見に行ったり、忙しなく走り回っていた。スコアなども後輩に任せて、姿を消したまま。
「何かあったの?」
落ち着きを取り戻した帰りのバスの中で、ようやく気になっていたことを尋ねる。
「1日、変だったろい?」
彼女はちょっと唸って、俺に話す理由を捻出しているようだった。そんなに難しいことなのだろうか。と、どうやらまとまったらしく、ちょっと言い難そうに言葉を紡ぐ。
「氷帝のテニス部は前から興味があってね。だけど、本物を見ると落ち着かなくって」
それで珍しくはしゃいでいたってことなのか。いや、でも、何だかそれだけでもないように思う。むしろ氷帝のレギュラー陣と顔を合わせないようしてた気が…まあ、憶測なんだけど。意外と照れ屋…って、言ってて何だか気持ちが悪いな。
そんなことよりも彼女が何かに、しかも氷帝なんかに興味があったというのは結構な驚きである。いや、氷帝だからこそ、なのか。次はちゃんと落ち着いていられると思うよー、と、もはや他人事のように苗字は言ってはいるが、このことは一応心に留めておこうと思う。何だか面白いし。
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