あの子は自由人 | ナノ

声をかける

「みんな、心当たりがあるみたいだね」

 そう言われると曖昧に笑うしかなかった。知り合い、でもないし、本当に度胸があるのか、と聞かれればあの時だけだったかもしれない。バッティングセンターに行ってたくらいだから、疲れて本当は気付かなかっただけなのかもしれない。というか、もう部活入ってたりして。
 うまく返事は出来なかったけれど、一応声をかけてみた方がいいもしれないな、と5人の目線による会議で決まった。もちろん、それは同じクラスの俺と仁王の仕事である。


 というわけで、早速次の日、仁王と朝練をちょっとだけ早く抜けて、例の女子とファーストコンタクトを取ることになった。幸村くんの命令である。新人戦も近いし、早いとここの問題を対処したいらしい。
 まだ人の少ないこんな朝早くからいるもんだろうか。と心配していたが、まだ数人しかいない教室に彼女はいた。朝早いのな。

 彼女は窓際の一番後ろ、いわゆる特等席。そこで頬杖をついて窓の外を見ていた。いや、目を閉じて寝ていた。構わず前の席にかけて、まじまじと近くで見ると結構整った顔をしている。肌は夏休みが明けた後にしては白いなー。とか考えてたら、仁王が声をかける。

「苗字さん」

 彼女は動じることもなく、ぱちり、と目を開けて、目の前にいた俺、そして声をかけた仁王を一瞥したあと、尋ねた。

「同じクラスの人?」


 …………………え?

 あ、いや、別に変に関心を持たれてきゃーきゃーうるさく騒がれるよりは、むしろ断然いい。顔真っ赤にしてもじもじされるよりも、断然いい。女子の中には、目をつけられないように敢えてテニス部に近付かない奴だっているくらいだ。そっちの方が、うん、断然良い。
 けど、転入早々、目立つ赤髪と銀髪がクラスにいることすら知らない、わかってないって、あれ、いや、別にいいんだけど…。

「に、仁王じゃ、仁王雅治」
「俺は、丸井ブン太」

 仁王もだいぶ動揺しているらしい。しかし彼女は何も気にしてないようだ。

「苗字名前、まあよろしく」

 にこり、とも笑わずに自己紹介を終えた彼女は再び目線を窓の外に移した。運動場ではサッカー部がまだ走ってる。

 

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