「切原、次、これ」
ひとつ上の女子マネージャーは、俺を名前で呼ばない。
柳生先輩はともかく、レギュラーの先輩達や他の先輩、同期に至るまで、だいたいは名前呼び。そりゃ知らない女子から突然名前で呼ばれたりするのは気味悪いけど、同じ部活で、平気できっつい練習メニューさせたり、後輩だからって人をこき使ったりするくらいで、仲良くないってわけではない。こういう時って名前の方が呼びやすかったりするんじゃないの?
というか、むしろ苗字先輩に苗字で呼ばれるのは、まじで怖いし、怖かった…。
部活終了後、意を結してマネージャーに物申すことにした。
「苗字先輩」
「ん?切原か」
そういえば、先輩は普段と部活とでは態度が違う。態度というか…冷たさと怖さが。
「俺、先輩に名前で呼んでほしいんスよ」
「何じゃ、赤也がマネージャーをくどいとるぜよ」
おもしろいことを聞いたと言わんばかりのニヤニヤ顔の仁王先輩。腹立つ、まじで腹立つ。
「何?赤也は苗字みたいなのが好みなのかよ?」
「赤也は明るい子がタイプなはずだが…」
「あーもう!違いますって!」
本当にこの人達は俺をからかって遊ぶのが好きだな。柳先輩も言った通り、俺は明るくって可愛い子がタイプであって、何考えてるかわからないぼーっとしたこのマネージャーは、当然、恋愛対象外であって。…って何の話してんだよ。
「苗字呼びだと他人行儀で冷たい感じがして、ちょっと怖いんだろ?」
俺もそうだからなんとなくわかる、とジャッカル先輩の優しいフォロー。そういやジャッカル先輩も"桑原"呼びだっけ。
「そうなんスよ!だから…」
しかし、期待の苗字先輩のアンサーは簡潔かつ冷徹だった。
「嫌だ」
…それはないでしょ。いくら何でも、可愛い後輩のお願いをスッパリ切り捨てるのはないでしょう。とは言え、他の先輩方は、このマネージャーならこんなもんだろう、と予想の範囲内だったようで、落ち着いた顔をしている。そうだよ、この人には変な期待をしちゃいけない。
「ちょっと怖いくらいが、聞き分けがよくて丁度良いでしょ」
だけど、いつかは絶対呼ばせてみせるって決めた。むしろ、「赤也くんはすごいね!」って感心させるくらい、とにかく頑張ろうと思った。
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