バイキングでたらふく食べて、テニスコート借りて打ち合って、近くのクレープ屋で買い食いしてー…ジロくんが眠ってしまった。
「どうすっかなー」
すると突然すごい音がジロくんから鳴り響いた。その手に握られた携帯電話である。とりあえず俺が携帯を取り、…人物を見て、取った。
「………跡部か?」
『どうせジローは寝ちまったんだろ?』
「お、おう」
『すぐ行く』
返事も何にも聞かないままプッツリと切れてしまった通話。そして、…本当にすぐに来た。
「よう、待たせたな」
「いや、全然待ってねーけど」
こいつ、マジでわかんねえ。とりあえず、ぐっすり眠るジロくんをちょっと離れた所にある長い高級車まで運ばされた。展開の早さについて行けず、俺も、隣にいる苗字も一言も発する余裕がなかった。
ついには運転手に開けさせた車のドアを、アゴで指して、
「お前達も乗れ」
家まで送るぜ、だと。
何故、こんな高級車で俺たちは送ってもらえることになってるんだか。帰りの交通費とか助かるけど、跡部の考えてることがまったくわからない。ホテルバイキングのタダ券もそうだし。
広くてふかふかの車内で、跡部はようやくこの状況を説明してくれた。
「いやな、今日ジローが丸井と遊ぶってんで、珍しく早起きまでして全練習に起きて参加したんだ。その礼も兼ねて、な」
そりゃ珍しいのかもしれない。けど、その礼がこんな豪華になって返ってくるって、金持ちはやっぱり半端ねえわ。感動、よりも呆れ、って感じ。いえ、有難く頂戴いたします。
「それにしても、丸井が女連れとは珍しいじゃねーの。立海にはそんなイメージなかったが」
俺の隣に座っている苗字を上から下まで見たあと、そんなことを言いだした。苗字は窓の外にあった視線を跡部に移す。練習試合で姿見せてなかったから、知らなくて当然か。
「こいつはマネージャー」
「立海テニス部のマネージャーしてます、苗字名前です」
練習試合で氷帝から逃げまくっていた苗字は苗字で、特に緊張するとかもなく、相変わらず適当な感じ。ジロくんがむにゃむにゃぐーすか言ってる車内。…さすが跡部、本人が変人なだけあって苗字の掴み所のなさにもすぐに適応出来ていた。
「立海のマネージャーともなると、大変じゃねーか?」
「そうでもないですよ。氷帝の部長のが大変そうですね」
「まあ、俺だからな」
「ほー、そうですか」
いや、むしろ跡部の変人ぶりの方が強烈かもしれない。苗字は、自由人とはいえその前に常識人である。常識からも逸脱した跡部の…いや…それにしたってうまく合わせられるのな。
「まあ、またジローと遊んでやってくれ。丸井、名前」
どうやら彼女は氷帝のキングさんのお気に召されたらしい。
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