あの子は自由人 | ナノ

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 今日の部活は午前中だけで、午後は気分を変えて近所のテニスコートに何人かで打ち合いに来ていた。赤也はもちろんのこと、あの仁王ですら部活後だというのにこのコートではなんだか生き生きしていた。まあ、俺もだけど。たまには緊張感のまったくないテニスというのは良いものだった。
 ひとしきり汗を流し終えて、テニスコート外の自動販売機で飲み物やら買いつつだらだらしていると、ふと仁王が言った。

「あ、あれは…」

 そこにいた全員が仁王の目線の先を追う。テニスコートに隣接されたバッティングセンターの方からジャージ姿の女がひとり、とぼとぼと歩いてくる。

「知り合いか?」
「…俺らのクラスの転入生」

 ジャッカルの問いに答えたのは俺。そう、俺と仁王のクラスについこの間転入してきた…名前は何だったか覚えていないが…女子だ。そいつはのろのろとこちらに歩いてきて、しかしこちらをまったく気にすることもなく、俺たちの前の自動販売機にポケットから取り出した小銭を入れ、炭酸飲料を買って帰って行った。こちらを一瞥もせず。だけど、赤也がもらいあくびをするくらい、すれ違いざまに彼女は大きくあくびをしていった。

 いや、別にこっちに気づいてほしいとかまったくそういう気はないんだけど、ガタイの割といい野郎の屯っている自動販売機とかよく使えるよな。仁王とか銀髪だし、ジャッカルとか…まあ、こっちを知らないにしても普通はちょっとは気にかけたりするもんじゃないかな。同い年にそんな度胸のある女なんて知らない。

「なんつーか、肝の据わった人っスね」
「そ、そうですね…」

 柳生が動揺するくらいすごい女だってことに、肩にかかったバットケースを見ながら、一同は感心していた。

 

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