あの子は自由人 | ナノ

モヤっとした何か

 なんとなくすっきりしない。変な感じ。

 いつも、ぼーっとしてて、何事にも動じなくて、感情を出さない苗字が、女の子に告白されて、優しく笑った。あいつって笑うんだな。いや、笑ってるとこを見たことがないわけではない。嫌みを言うときとか結構ニヤニヤしてるし、やる気のないへらってした笑顔だってよくしてる。さすがにちょっと無感情は言い過ぎだけども、だけど素直に笑うってのは見たことない。彼女が優しい顔、とか。

 恐らく、仁王も赤也もそうだ。彼女があんな顔をしたことで、「あんな顔ができるんだな!」と純粋に感動できてない。何で、今までそんなふうに笑うところを俺たちは見たことがないのか。そればっかり考える。
 俺たちは今まで、あいつがガサツだからとか、女じゃないからとか、そんな奴だから仕方ないもんだと思っていた。それがどうやら違う。ちゃんと素直に笑うのに、笑わせていなかったのか…?

 じゃあ、どうしたら彼女は素直に笑ってくれるのだろうか。


 強い運動部のマネージャーの仕事はもちろん辛い。好んで続けたいとは普通考えない。選手たちの練習も見てられないほど辛いものであったりする。それに好き好んで付き合うのも普通は嫌なものだろう。
 そんなマネージャーを、いかに続けさせるか、いかに楽しませるかは全部選手次第だ、と思う。マネージャーを、苗字を、苗字の表情を変えるくらいの何かを、俺たちはしなくちゃならない。…そういうことなのだろうか。


「仁王、丸井、切原。ずいぶん腑抜けた顔だね」
「…考え事してたんス」

 沈んだ三人を呼びつけたのは他でもない苗字だった。実は昼間の告白現場をこっそり見てました、なんて言えるわけもなく…。目を細めて三人を見比べる彼女を、俺たちはじっと見つめるしかなかった。
 彼女が溜め息をつく。

「罰として、君たちは最後にグランド10周追加」

 ぐえ、何じゃそりゃ。突然の罰則に三人で揃って抗議の声をあげた。そりゃあちょっと気分的に落ちてたけど、何も悪いことやってねえじゃんかよい。正直、さっきまで考えてたことなんてどうでも良かった。が。


「昼休み、盗み聞きしていたのは誰だったかな…」


 ちゃんと、グランド10周、走らさせていただきました。

 

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