あの子は自由人 | ナノ

呼び出し

 昼休みが始まってしばらくして、苗字は1人ふらりと教室を出ていった。仁王と俺も何気なく後ろをついていく。途中、赤也とも合流し、人気の少ない裏庭で待つ苗字を木の影から見守ることにした。この距離なら声も聞こえるし、多分気付かれない。

 ちょっとしてから、女子が現れた。1人で。結構大人しそうな子。…ということは、別にいじめとかそういった類いのものじゃないってことか。いや、まだわかんないけど、あれくらいなら苗字がなんとかできるだろう。それくらいひ弱な子。

「私を呼び出したのは、君?」
「は、はい、わ、私、1年の………です」


 ん?やっぱり、アレな気がしてきたんだけど、気のせい…じゃなくね?アレなのか?


「私、テニス部に憧れて、よく練習とか見に行ってたんです。そんな時に、新しい女子マネージャーが入ったって聞いて、すごく不安だったんです…」

 か細い声に聞き入る。

「けど、その女子マネージャーさんは、厳しくて、全然媚びた感じもなくて、かっこよくて…、体育の授業で、先輩がホームラン打ったところも見たんです!本当、かっこよくって…!」

 今すぐぶっ倒れそうなくらい顔を真っ赤にして必死に言う女子。ああ、こりゃアウトだわ。

「苗字先輩のこと、す、好きになってしまったんです…!」

 そう言い切ってから、女の子は苗字の胸に飛び込んだ。うわ…勇気あるのな。


「あ、あの女…………!」

 赤也が小さく悲鳴をあげた。…多分こいつが考えてるのは、その女子が苗字の胸に顔を埋めたからだ。初対面とはいえ女子だから為せる技。こいつの言葉の後には絶対「うらやましい」が入る。絶対。仁王と二人で赤也を睨む。

「…わかってるんです。先輩が女の子で、私にそういった感情が生まれないことくらい。…だけど、好きだと伝えたかった」


 苗字は困ったように上を見て一息つき、そして今度はうってかわって…優しく笑ってその子の頭を撫でた。

「ごめんね」



 あんな表情、初めて見た。



「でも、ありがとう」



 あの笑った顔が、頭から離れない。俺も、たぶん仁王と赤也も。苗字が、あんなに優しく笑うなんて。

 

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