朝目が覚めると頭が重く、今日は学校をサボろうかと考えたが、一人でいる方が気が重い気がしていつも通り登校してきた。


「おはよう制理ちゃん」

「おはようアヤノ、……あら、顔色が優れないわね。大丈夫?」

「大丈夫だよ、ちょっと夜更かししちゃっただけ」


すぐれない体調のまま午前の授業を乗り切り、昼休みになると昼食を摂らず保健室へ向かった。
体調が悪い事を伝えるとベッドの使用を了承され、布団に潜り込み横になって目を瞑る。段々と廊下の騒がしい声が遠のいていった。



「……アヤノ」

「……」

「寝てるのかにゃー?」

「その声はグラサン、私の寝込みを襲いにきたのかね……助けてせんせ、」

「生憎センセーはいないぜい。……朝から調子悪そうだったが大丈夫か?」

「……うん、横になったらスッキリしたよ。で、なに?」

「……まぁ、ちょっといいかにゃー」


土御門に呼び出され言われるがままついていき、使われていない教室に移動する。気が付かなかったが、すでに午後の授業は始まっていたらしい。


「せっかく午前の授業頑張ったのに土御門のせいで結局サボりじゃんか。寝込みを襲いにきたりこんなところに連れ込んだり一体私になにをするつもり?ていうかさっきのスルーしたね!?」

「アヤノの戯言に付き合ってる暇はないからにゃー」

「戯言!?」

「生憎アヤノなんかを襲うほど飢えてもいないしにゃー」

「すごい言われようだ!」


いつもの軽いふざけ合いも直ぐに途切れ、暫く静かな時間が流れた。
正直、この後の話の想像はついている。わざわざ呼び出されてするような話と言ったら……告白なんて西から日が出ることほど有り得ない。


「……アヤノ。話が済んだら学校ぬけるぜい」

「……“暗部”ってのに行くの?」

「あぁ」

机に腰掛けながら言う土御門に疑問を投げかける。


「何でその暗部とやらの上の人達は私に取引をしたの」

「その質問の答え含め今から話すから、まあまず聞いてくれ」



土御門の独特な話し方も、いつもみたいなへらへらとした表情も消えた。



少し間を置いて、土御門が口を開く。


「察しているかもしれないが、お前の兄貴にあった事は全部、お前を暗部に入れるための計画だ」

「……うん」

「お前は能力を好んでいない。だから能力の開発にも嫌気が差し霧ヶ丘女学院から転校してきた。だがアヤノの能力に目をつけている奴らは多いんだ。それに同じく目をつけたのがアレイスターや、上の奴らだ。あらゆる物体の動きを止めるなんて、使い方次第じゃレベル5だってどうにかできるだろうからな」

「それはさすがに無理だよ。私は物体の動きを止められるだけで、能力はどうにもできないし……」

「お前がそう思っているだけだ。使えない奴を人質を使ってまで暗部に引きずり込もうとはしない。……まぁ、目をつけられたからにはもう後戻りはできないぜ。まずはグループの奴らに逢わせないとな」

「グループ、ね」


理不尽に暗部へ導かれ、手を汚さなければならないなんて。自分の能力や上層部の人間とやらへの恨みが頭の中を掻き乱し、奥歯を強く噛み締めた。


「グループに馴れ合いなんてものはない。互いに自分の大切な物だけを思いながら動いている。仲間だと思って信用はするな。……でもまぁ、」



土御門は私の頭に優しく手を置いた。


「グループには俺もいるからにゃー。できる限り守るぜい。簡単にいなくなられちゃ高校生活が味気なくなるしにゃー」

「……土御門も信用できないなぁ……」


そう呟きながらも、土御門の言葉と手の暖かさに目から雫が流れ落ちた。



「知ってるとは思うが、暗部は人も殺すんだぜい」

「……私がそれを知っても断らないってわかってたんでしょ、その上のお方は」

「まぁにゃー」

「腹立たしいなぁまったく」


目に溜まった涙を拭い、自分の頬を叩く。


「決心はついてるようだし、このまま抜けるぜい」

「顔合わせかぁ、厳つくてマッチョな人達とうまくやれるかな」

「お前の中でのイメージとは大分離れてると思うにゃー……」


学校を抜け背中を追っていくと、少し先に止まっている車両を見て土御門が言う。


「迎えだぜい」

「……うん」


あの車の中に“グループ”のメンバーがいる。
アヤノは固唾を呑み、車へと歩みを進めた。




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