「アヤノ、女の子が一人で夜道を歩くのは危ないかも!遠慮しないで家まで送ってもらうべきだよ!」
「心配してくれてありがとう!インデックスほんとかわいい天使っ!でも大丈夫、一人で帰れるよ!」
「いや、この時間は危ないだろ」
「もの好きが襲ってくる事も無きにしも非ずだぜい。しゃーないから送っていってやるブホッ」
「ほーんと余計な事を言うよね土御門は。一人でのんびり帰りたい気分なの!じゃ、おじゃましました!」
土御門を一発殴り、上条宅を後にする。
出先で偶然上条とインデックスに出会い、一緒に夕飯を食べようということになり、土御門も呼んで先ほどまで上条宅でプチパーティーをしていたのだ。くつろいでいたら随分と時間が経ってしまった。
少し遠い自宅までの道をのんびりと歩く。
そういえばここ数日、隣の部屋から人の気配がしない。今までは気がつかなかったが、一方通行は帰宅しない事がよくあるみたいだ。
最近顔見知りになったばかりで一方通行の事をほとんど知らない。アヤノが知っているのは、缶コーヒーが好きな事、後は噂で聞いた話くらいだ。
「気になるなぁ」
あの日をきっかけに一緒にコンビニに行ったり(正しくは一方的について行っている)、たまに出くわしては会話したり(正しくは一方的に以下略)、そんな仲になれたのに、数日顔も見れずなんだか寂しい。
そんな事を考えながら、歩みを進める。
暫く歩くと前方の物陰にチンピラ数人がいるのが見えた。
「今日は誰もいないし関わらないのが一番」
少し戻って反対側の歩道へ移ろうと思い回れ右をすると、
ガサッ
そこにはポイ捨てされたコンビニ袋があり、気が付かずに踏んでしまった。
ロボットめ、清掃する為にぐるぐる回ってるくせに役立たず!なんて心の中で八つ当たりしていると、背後から足音が近づいてくる。
「ようオジョーサン?こんな遅くになにやってんのかなぁ?」
振り向くと先ほどのチンピラ数人がいた。
「あはは、ここに落ちてるゴミを拾おうとしてただけですよ。お兄さん達もゴミ拾い手伝ってくれるんですか?助かるなぁ〜」
「ふざけてんのかてめぇ、立場わかってんのか?まぁいい、俺達とこいよ。いいことしようや」
「いいこと?私にとってのいいことはテストがなくなるか世界平和なんだけど、叶えてくれます?」
「てめぇ、ぺらぺらと口達者に……」
「おっとこれ以上言うと怒らせちゃいそう……それでは私はここで失礼します!じゃ」
「じゃ、じゃねえんだよクソ女!痛い目みてぇんか!」
集団で狙ってくるような人種がどうにも気に入らなくてついからかってしまい、案の定怒りを買ってしまった。
「女に手をあげるんだ。別にいいよ、どうぞご自由に」
抵抗することなくへらりと笑うアヤノに、一人の男が襲ってくる。
確かにアヤノを捕らえようと向かってきた、はずなのだが。
「……は?」
アヤノの目の前で、動きが止まっている。
「おい、どうしたんだよ!?なんで止まってんだ!?」
「し、知らねぇよ、体が動かせねぇ!」
他のスキルアウトは動揺して近づいてこない。目の前で固まるスキルアウトは声を震わせながら言う。
「テメェ、能力者かよ……!?」
「そんな事も考えずに襲ってくるなんて馬鹿丸出しだよ。近づこうとしたって無駄。私の能力は人の動きを止められるんだから」
トン、と目の前の男の身体を押し、能力を解放するとズシャッと地面に転がる。
その間に携帯電話を取り出し耳に当てる。
「男数人の集団に襲われています、助けて下さい」
アンチスキルへ電話、正しくはそのフリをすると、地面に倒れた男はくそっ!と吐き捨て、仲間と共にバタバタと逃げていった。
「簡単に引いてくれてよかった。さすがに全員の動きは止められないし」
日常的に能力を使う事がない為、一人に使うだけでも結構疲れる。そこがレベル3止まりだな、なんて考えながら再び帰路を進もうとすると。
反対側の歩道に、全体的に白い人物を発見。片手で缶コーヒーを飲んでいるのが見えた。
一週間も経っていないはずなのだが、すごく久しぶりな気がして嬉しさ全開に一方通行の元へ駆け寄る。そういえばすぐそこに元バイト先のコンビニがあった。
「一方通行こんばんはー!偶然だね、そしてなんか久しぶりな気がする!あ、また大量の缶コーヒーだ!」
「なンでいつもうるせェンだテメェは。つゥか随分無能力者共と楽しそォだったじゃねェか」
「えっ見てたの!?だったら助けにきてよー!」
「必要ねェだろ」
「必要あるよ!助けてもらいたかった!」
ちょうど一方通行を発見できていれば、か弱い乙女アピールできたのに!と心の中で思っていたつもりが、漏れてンぞと言われ冷めた目で見られた。
「能力があンならわざわざ突っ込ンでくる必要なかったンじゃねェのか」
「あ、やっぱりそこも見られてたか……いやぁ、最初から能力を駆使するのってなんかイヤでね。というか私先走ってしまいがちで、あの時も咄嗟に突っ込んで行ってしまったんだけど……」
苦笑いをし、続ける。
「使わなきゃダメだって時は使うけど、あの時はその前に一方通行が倒してくれたし!」
「……」
「それより、今日はいつものコーヒーなんだね?やっぱりこっちのが好きなんだ。ブラックっておいしい?」
「まずいと思うもン飲まねェだろ」
「それもそうだ。苦いイメージしかないけど飲んでみたくなってきたなぁ……」
片手に持った飲みかけの缶コーヒーをチラリと見つめると、大きく溜め息をついて一缶放り投げてくる。
「一口でいいのに!これ貰うんだったらお金払、」
「いらねェ」
一方通行の飲みかけを一口貰うだけで良かったんだけどな、と少ししょんぼりしながらお礼を言い受け取った缶コーヒーを開ける。
子どもの頃、親の飲んでいたブラックコーヒーをいたずらで口にした以来だ。苦くて美味しくないイメージしか持っていないのだが、好きな人の好きな物は気になってしまうのが乙女心。恐る恐る口に含む。すると口の中に一気に苦味が広がった。
「すんごく苦いっ!」
「ありがたく全部飲めよ」
「うう、やっぱり一口だけ貰うべきだった!でも初めての一方通行からのプレゼントだから頑張る」
気持ち悪いアヤノの発言には反応をしないように、聞いていないフリをして先に階段を上がる一方通行。
そしてあっという間に自室の前。
「おやすみ一方通行!コーヒーありがとう!今度お礼するね!」
「いらねェよ。つゥかいちいち絡ンでくンじゃねェ、」
「じゃあまたね!」
「……聞いてねェ」
残りのコーヒーは、牛乳と砂糖を混ぜて美味しく頂きました。
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