結婚式の日、喧騒の中私を迎えに来たのは予想通りヴァリアーのメンバーだった。

お父様と話をする時間さえ与えてもらえず、着替えを済ませると早々に車に乗せられた。

歓迎されている雰囲気なんてものは勿論無くて、彼等は必要最低限の言葉しか発しなかった。


車に乗り込む際の、お父様の悲痛な表情が頭に焼き付いて離れない。


少しでも安心してもらいたいと微笑んでみたけれど、余計にお父様の表情を歪めてしまっただけだった。


戸惑う私が初めに案内されたのが、今私がいるこの部屋だった。

そう―いわゆる“夫婦の寝室”だ。

ヴァリアーの屋敷に連れて来られて1週間も経ったけれど、私の夫であるザンザスを見たのは結婚式以来一度もなかった。

初夜。

そういう知識には疎い私でも、その意味は知っている。子供を産むという事は、正妻である私の唯一与えられた役目。

何もかもが初めてで、緊張しながらただ扉を眺めていた。

愛してもいない人とそういう事をするのに、抵抗がない訳じゃない。

寧ろ嫌だ。

逃げ出したくてたまらない。

けれど、妻になった以上拒む事は許さない、そう自分に言い聞かせるしかなかった。


一時間、二時間と時間が過ぎていったが彼が来る事はなく、心身共に疲れ切っていた私はいつの間にか眠ってしまっていた。

朝、部屋へとやって来たメイドに彼の事を何度か聞いてみたが、「ザンザス様は屋敷にはいらっしゃいません」としか答えてもらえなかった。



憂鬱のに捕われて




人としても必要とされず、妻としても必要とされない。

私の左手の薬指にキラキラと輝く指輪がまるで鎖のように私を縛りつける。




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