気が付いた時、私は浮遊感と心地いい暖かさに包まれていた。 まだぼんやりとしたまま目を開けてみれば、そこには侑士君のドアップ。 「名前ちゃん、気が付いたんか?!」 「えっ、あ、何で・・・?」 戸惑っている私を侑士君は「よかった・・・」と呟きながら抱きしめてきた。 そこでようやく私はあの船での出来事を思い出したのだった。 (私、助かったんだ・・・) そう安心したものの、今度は侑士君の肩越しに見える景色に驚いた。 真っ青な空。 波の音と潮風。 そして、あの豪華客船は何処にも見当たらなかった。 「おいっ、忍足。そのへんにしとけ、移動するぞ」 声がした方に視線を向けると見覚えのある人の姿があった。 (え〜っと、確か・・・跡部君だったよね?) 開会式の時のド派手な演出の中、挨拶していた人・・・のはずだ。 「名字、今から移動するが歩けるか?」 「はい、大丈夫です」 跡部君は砂浜に横たわっていた私にそう言って、手を差し延べてくれた。 その手を取って、私はゆっくりと立ち上がる。 若干足元はふらついたけれど、歩けないほどではなかった。 「ありがとう」 「気にするな」 「名前ちゃんが無事ならえぇんや」 2人にお礼を言えば、なんとも紳士的な返事が返ってきた。 そんな事をすんなりと違和感無く言える中学生って、なかなかいないと思う。 心の中でそう感心していると、またしても背後からこっちに向かってくる複数の足音が聞こえてきた。 「名字さんっ!」 「大丈夫か?どこも怪我はしていないな?」 振り返って見れば、立海の皆の姿があった。 →next |