雨は小雨になっていったが、今だに船の揺れは続いている。 今回の合宿に参加したメンバーの大半は既に避難済みで、まだ甲板に残っているメンバーはごく僅か。 立海・四天宝寺・氷帝。 立海と四天宝寺のメンバーは全員残っているが、氷帝では跡部と樺地、そして俺―忍足侑士。 ここに残っている全員が、神妙な顔で船内へと続く扉を見つめていた。 四天宝寺の部長である白石と部員の遠山、そして名前ちゃん。 ――この3人がまだ戻ってきていない。 「・・・落ち着けよ、忍足」 「・・・わかっとるわ」 そう口にしたところで、俺の苛立ちや焦りが収まるわけもなく、今にも名前ちゃんを探しに行きたいという思いをどうにか我慢するので精一杯だった。 そんな時、船を叩き付ける波音に混じって僅かに聞こえてくる足音。 甲板にいる全員の視線が扉へと集まっていく。 それと同時に俺はその扉に向かって走り出した。 「ワイが見つけてんでーっ!」 勢いよく扉が開き、そこには大きなスーツケースを頭に担いだ遠山の姿があった。 その後ろには女の子を抱えた白石の姿。 「名前ちゃんっ!」 白石の腕の中でぐったりとしている彼女に俺だけじゃなく立海メンバー達も声をかける。 青白い顔。 その姿が初めて名前ちゃんを見た、あの病室での彼女の姿を彷彿とさせる。 「これで全員揃ったな・・・。早くボートに乗れっ!」 跡部の言葉に再び緊張感が漂う。 「コイツは俺達のボートに乗せる」 「・・・跡部っ!」 「そっちは定員オーバーしちまうだろうが・・・」 跡部と幸村がやり取りしている間に、俺は白石から名前ちゃんを預かる。 「・・・よかった」 細く小さな名前ちゃんの体をギュッと抱き抱え、自分が乗るボードへと向かう。 「忍足っ!」 背後から幸村の声。 その声に足を止めて、顔だけを後ろにいる幸村へと向けた。 「名字さんを・・・頼む」 そう言って頭を下げた幸村と、その後ろで同じ様に頭を下げる立海メンバー達。 「・・・任しとき」 そう言って笑みを返せば、幸村達もホッとした表情を見せた。 本当は色々と言ってやりたい事があったけれど、こんな事になるとは誰も思わなかっただろうし・・・、それ以上にあんな顔をする幸村達を見てしまえば何も口にする事は出来なかった。 (・・・大事にされてんねんなぁ) ほんの少し。 ほんの少しだけ、チクリと胸が痛んだ。 →next |