vol.05


「う"・・・気持ち悪い・・・」


部屋に戻って暫くすると、船が揺れ始めた。

嵐に遭遇し天気が荒れているため多少の揺れは仕方ないし、そんなに長くは続かないだろうと気楽な事を思っていた。

しかし、揺れはおさまるどころか次第に激しくなっていく。

頭はクラクラするし、さっきお腹一杯食べたのもあって吐き気もする。

いつ吐いてもいいように、私はトイレに籠りっぱなしだ。

地面が恋しくて仕方ない。

そんな中、


――ドンッ


と今までで一番大きな揺れが襲い、停電までしてしまった。


「・・・嘘・・・でしょ・・・」


私の頭の中に最悪な2文字がよぎる。

幸いなことに停電したのは一瞬だったのだが、船が明らかに傾いているのが分かる。

それに――船が止まっている。


「もしかして、船が座礁した・・・?とにかく皆と合流しなくちゃ」


部屋から出る為にドアへ向かおうとした瞬間、再び停電してしまった。

辺りは真っ暗。

そして、一向に治まらない頭痛と吐き気。

なんとか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。

直ぐに座り込んでしまう。

不安と緊張でパニックになりそうな自分が情けなく思えてしまう。


 ◇◆◇


「全員いるっ?」

「・・・名字がいないっ!」

「・・・っ?!」


嵐で揺れる甲板、雨が容赦無く俺達を打ち付けてくる。

どの学校も部長が先頭に立ち、部員を先導していた。
雨で視界が悪く、声を張り上げて全員いるか確認してみれば、最悪な返事が返ってきた。


「幸村、俺が名字を探してくる!お前は皆と先に行けっ!」

「そんなワケにはいかないっ、俺が・・・」

「待て、お前等っ!!入れ違いになったらどうするつもりだっ!」

「跡部・・・」


名字さんを探しに再び船内に戻ろうとした時、跡部に止められてしまった。


「他にもまだ船内に残ってる奴がいる。・・・それに、もう他の奴等が探しに行った。この船も直ぐに沈むワケじゃねぇ、時間はまだある。――落ち着け」

「・・・・・・・・あぁ」


俺は名字さんがいない事にすぐ気がつかなかった。

自分の不甲斐無さが許せなくて、自分自身に対して怒りが沸き上がってくる。


「跡部、俺達も救命ボートを出すのを手伝おう」

「あぁ、頼む」


「・・・っ、幸村部長!」

「名字さんが戻り次第、直ぐ出せるように準備するんだ」


今の俺には、彼女が無事でありますように・・・と祈る事しか出来なかった。



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