今なら私、空を飛べるかもしれませんっ!! 実際に人間が空を飛べるはずがありませんが、そんな気分になるくらい嬉しいということをわかっていただければと思います。 朝からおかしいとは思っていたのです。何が?って、それは勿論眼帯さんのことですよ。 いつものように、朝から家の前で待ち構えていらっしゃるわけでもなく、かといって校門や教室で待ち伏せしてらっしゃるわけでもなく、はたまた、休み時間毎に私を引きずりまわすわけでもなく、昼休みを迎えたのです。 昼休みもいつもなら、チャイムが鳴ったと同時に捕まり、眼帯さん+強面な人達に囲まれ食事となるわけですが、今日は眼帯さんは綺麗な方々に囲まれています。そして、その辺りはなんだか大人な雰囲気が漂っている気がします。 けれど、そんなことはどうだっていいのです。 「おさるさん、待っててくださいね」 私はお弁当を抱えながら、おさるさんがいる中庭を目指した。 「成実〜、どぉいぅことだぁあぁぁっ!!」 「お、落ち着いてよ、梵!(なんで俺のせいになるんだよっ!!)」 名字さんが教室を出ていった途端、群がっていた女の子達を押し退け、梵は俺に詰め寄ってきた。 「1日目だから名字さんもまだ実感が湧かないんだよ、き、きっと!」 「そうですぜ、その証拠にチラチラと筆頭のことを見てたじゃねぇですか!」 「恥ずかしくて、自分から話しかけられずにいるに違いない!」 「間違いなく名字さんは筆頭のことを気になってますぜ!!」 「Hum…そうか」 俺の胸ぐらを掴んでいた手を放し、途端にニンマリと妖しい笑みを浮かべる梵。俺がホッと息を吐いている間にも飛び交う言葉に、何故だか無関係な俺が居たたまれなくなってきた。 ことの始まりは昨日の放課後のことだ。 pet(=名字さん)が何故なつかないのか?という下らないというか、どうでもいい議題で話し合われた結論が、『押して駄目なら引いてみろ』だったのだ…。 議題だけでなく結論まで下らなくて、泣きそうになった。―しかも、この結論は参考資料にと、女子から借りた少女漫画から導きだされたときた。 まぁ、今まで自分から動くってことを全く経験していない梵だから、しょうがないと言えなくもないけどさ…。 (あれは誰がどう見たって…) 嬉々と教室を出ていった名字さんの姿を思い出し、俺は大きな溜め息を吐いたのだった。 →next |