テーブルの上で真田幸村は遠慮なく鞄を逆さまにして中に入っていたお菓子を広げた。あまりの量に、いくつかはテーブルからこぼれ落ちる。

彼の頭の中は既にお菓子のことで埋め尽くされていた。

珍しくこの場には自分一人しかいない。(授業中なのだから当たり前なのだけれど)つまり、どれだけお菓子を食べようとも口煩く咎める人――彼のお目付け役である猿飛佐助――がいないということである。


「幸せでござるっ…」


一番の好物である団子を掴み取り、満面の笑みを浮かべながらモグモグと方張った。


――目の前の山積みになったお菓子の下に、食べ物でも、彼の物でもない物が紛れ込んでいたことに、彼は全く気付いていなかった。


  ◇ ◆ ◇


ところ変わって、昼休みに入った名字名前の教室では異様な緊張感が漂っていた。


「政宗ぇ〜、一緒にお昼どうかなぁ?」

「私、政宗の為にお弁当作ってきたんだぁ」

「どうせなら、午後サボって遊びに行こうよぉ〜」


女達の甘ったるい声だけが静まり返った教室に響いていた。

以前ならいつもの光景で済んだが、政宗がどういうわけか名前を気に入り、追いかけまわしているという光景に慣れてしまった今では、異様な光景に見えてしまう。

ある者はそそくさと教室を出ていき、ある者はその光景を視界に入れないよう必死にあさっての方向を向いていた。

しかし、その中で冷や汗を流しながら頭を抱えている人物がいた。政宗の従兄弟である成実だ。


(俺のせいじゃないだろうがぁっ!!)


心の中でどんなに叫んだところでその声が届くはずもなく、クラスメートからの鋭い視線が彼にグサグサと刺さってくるのだった。




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