(…あの野郎っ!!)


ドカドカといつも以上に元親の足音が廊下に響いていた。

相手が力ずくで掛ってきたならば勝つ自信がある。しかし、自分から手を出すのは元親の流儀に反するし、かと言ってあの元就に口で勝てるハズもない。

大抵の場合どちらかが、あるいは両方がその場を離れる事で二人の争いは一応終わりを迎える。

だが終わったからといって怒りが静まるはずもなく、そんな時はバイクを走らせる事で元親は怒りを発散させていた。


「うわっ!」

「っ!!…なんだテメェかよ」


今日はどの辺りまで走ろうかと考えながら歩いていたら、横から勢いよく誰かが飛び出してきてぶつかってきた。その拍子に、元親の鞄が廊下に投げ出される。


「す、すまぬっ!」


飛び出して来た相手――真田幸村がガバッと頭を下げると、バサバサと手から何が溢れ落ちる。

鞄の中からノートや筆記用具だけでなく大量のお菓子―クッキーやポテトチップスやポッキー等のスナック菓子から、みたらし団子やおはぎといった和菓子までありとあらゆる甘味―が廊下に散らばってしまう。


「………!!」

「…………ブハッ」


その惨状に真田の顔は一気に真っ青になりあたふたと慌て始めた。元親はそんな真田の姿に思わず笑ってしまう。

元親は手早く散らばった自分の荷物を拾い鞄を肩に掛けると、幸村と同じ様にしゃがみ廊下に散らばった彼の“宝物”を拾い集めた。


「あの、も、元親殿。その…この事は…」

「あぁ、わかってる。アイツには黙っててやるよ」


元親のその言葉で、幸村の表情がパァと明るくなった。その事から、猿こと猿飛佐助に常日頃どれだけ口煩く言われているか安易に想像出来て、苦笑してしまう。

けれど、散らばった彼の“宝物”の量を改めて見てみれば、口煩くなってしまうのも仕方ないというものだ。


 ◇◆◇


「かたじけない」

「いいってことよ。…じゃあな」


再び両手一杯のお菓子を抱えた幸村は満面の笑みで礼を言い、元親の見送った。




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