登校時間がとうに過ぎた頃、1台の派手なバイクが校門から入って来た。

騒音ともいえる大きなバイクの音が辺りに響き渡る。そして、それを合図に何人もの生徒達が校舎から飛び出してきた。

鬼という違名を持つ長曽我部元親、彼が久々に登校してきたのであった。

彼を慕う生徒達の野太い「アニキーッ!」という叫び声にびびった名前がビクッと脅えたように体を震わせた事に気付いたのは、授業そっちのけに名前を観察していた政宗だけだったとか…。



 ◇◆◇



「ん?誰もいねぇの…」

「貴様の目は節穴か」

「あ"ぁっ!何だとっ!!」


元親が真っ直ぐに向かったのは自分のクラスではなくいつもの溜り場となっている教室だった。

誰もいないと思っていたのだが、教室の隅―窓から日が射す場所で椅子に座り本を読む一人の男がいた。

毛利元就、元親の幼なじみであり天敵でもある人物だ。



お互いの鋭い視線がぶつかる。



暫く睨み合っていた二人だが、元就はフンッと元親の事を鼻で笑った後、手にしていた本へと視線を戻した。


「……テメェ」


元親の顔は怒りのせいか引き攣っていた。そんな彼を名前が見たならば、恐怖の余り失神してしまうに違いないが、あいにくこの場にいるのは元就ただ一人。

相手をするだけ時間の無駄とばかりに、元就は元親を無視している。

更に怒りを煽る様な元就の態度に元親は近くにあった棚に思いっきり蹴りを入れた。

ガシャンと音をたててヘコンだ棚が床に倒れた。

それでも気が済まなかった元親は、次にドアを殴った後、その部屋を出ていってしまった。



部屋に残されたのは涼しい顔をした元就と、原型を留めていない棚。そして、くっきりと元親の拳の型が残っているドアだけだった。




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