ザンザスの殺気を感じてこの部屋の前で待機していたスクアーロに、今回の件で必要な書類を押し付けて、俺はヴァリアーの屋敷を後にした。


「…10代目」


車に乗り込めば、隼人が心配そうに声をかけてきた。

しかし俺はそれに作り笑いを返すことしか出来ず、隼人の表情を更に歪ませる結果となった。

静かに走り出した車内で、俺は後部座席に持たれかかり、目を瞑る。

もうこの事は父さんの耳にも入っているはずだ。そして、本部で俺を待ち構えているに違いない。

そう思うと、無意識に俺は溜め息を吐いてしまっていた。


 ◇◆◇


高校を卒業後、直ぐに俺は守護者と共にイタリアへ渡った。

ボンゴレのボスになることには躊躇いがあった。

けれど、俺の力で守れるものがあるのなら…、そんな思いで俺はボスになる決意をしたんだ。

京子ちゃんやハル、今まで俺が出会った大切な人達。
そして、家に一人残されるというのに、俺を笑顔で送り出してくれた母さん。

皆、俺が守りたい人達だ。

それなのに、イタリアで耳にした父親の噂は俺のそんな気持ちを粉々に打ち砕いてしまった。

そう、それは…


――父さんの愛人の存在だった。


ただの噂だ、何かの間違いだと自分に言い聞かせながらも調べてみれば、それが事実だという残酷な証拠しか出てこなかった。

何年も俺達が待つ家に帰らず、よそに愛人を作っていた父さん。

笑っている母さんの顔が脳裏に浮かんできて、俺はその時数年ぶりに声を上げて泣いた。




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