ザンザスがさっきまで手にしていた書類は、彼の炎によって灰と化した。


「悪いけど、この件に関してヴァリアー側に拒否権はないんだ」


人を殺せそうな視線を向けられているにも関わらず、10代目はその視線を真っ直ぐに受け止め、臆することなく言葉を発する。

そこには、以前家光が見せてくれた写真に写っていた男の子などいやしない。

いるのはボンゴレの10代目ボス、その人なのだ。


「名目上、彼女はヴァリアーの監視役ということになりますが、実際にはザンザスの秘書として仕事をしてもらいます。けれど――決して彼女を任務には出さないで下さい」


その最後の一言で、私は10代目がどうしてそんな事を言い出したのか瞬時に分かってしまった。


「この条件を飲んでくれるなら、今いる本部からの監視は全員外します。そうでないのなら…」


ボンゴレで最強を誇る暗殺部隊ヴァリアーのボスであるザンザスに、10代目は脅しとも取られる言葉を淡々と口にした。

怒りのせいか、ザンザスの掌から出ていた炎が一気に大きくなる。


「…ドカスが」


地を這うような重低音。

ザンザスが言葉を発した後、10代目は用は済んだとばかりに足早にこの部屋から出ていったしまった。

いや――これ以上、私と同じ部屋にいるのが耐えられなかったのかもしれない。

この部屋から10代目の姿がなくなっても、ザンザスが発する殺気は消えなかった。

9代目はいまだ震える私の体を落ち着かせるように、背中を優しく撫で続けていてくれた。

いつも優しさで満ち溢れている彼の瞳。

けれど今は僅かに影を落としている。

私はそれに気付かない振りをした。



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