いくら家光の命令で私を監視しているとはいえ、ボンゴレ10代目の彼に手は出せない。

すんなりと彼の車に乗ることが出来た。


「…例の所まで」


彼が運転手にそれだけ告げると、車は静かに走り出す。

助手席には高そうなスーツを身に纏った男が座っており、私に僅かながら殺気を向けてくる。

いくら私が家光の事を本気で愛していても、愛人という事実には変わりなくて、彼等から見れば紛れもなく私は悪者なのだ。

私がいくら逃げたって、ボンゴレNo.2である家光には直ぐに居場所がバレてしまい、連れ戻される。国内だろうと国外だろうが結果は変わらなかった。

私の隣に座る彼はさっきどんな気持ちで『状況は分かっています』と言ったのだろうか?

彼の表情はやっぱり堅いままで、私はいつも以上の罪悪感に苛まれる。

今にも溢れ出しそうな涙を、ギュッと唇を噛んで我慢することしか出来なかった。


 ◇◆◇


一体、どのくらいの間走っていたのだろうか?

ほんの僅かな時間かもしれないが、私にしたら何年も時が過ぎたかのように感じられた。

車は豪華で頑丈な門を潜り抜け、ある屋敷の前で止まった。


「さっさと降りろ」


助手席に座る彼にそう言われ、急いで車を降りる。


「…ここは」


見覚えのある建物。

過去に数回訪れた事のある場所だった。


――私は殺されるのか。


そんなことが頭をよぎる。

10代目の話はよく家光から聞かされていた。

心優しく、臆病な所もあるけれど仲間の為なら自分の事など省みない――自慢の息子だと…。

私はそんな優しい彼の心をここまで傷付けてしまった。

それを今、目の前に突き付けられた気がした。

そんな事は最初から分かっていたのに、傷付いている彼に動揺してしまう私は本当に卑怯者だと思う。



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