開けられた窓からは、街を走る車の音や走り回る子供達の声、そんな日常の喧騒が聞こえてくる。 ついにこの日が来てしまった。 暖かな陽射しが降り注いでいるというのに、この部屋は空気が凍りついたかのように静かだった。 今、私と向かい合わせにソファーに腰掛けているのは、ボンゴレ10代目である沢田綱吉、 ――私の愛する人の息子。 私が煎れた珈琲に口をつけることもなく、ただうつ向き口を継ぐんで座っているだけだった。 それも仕方ない。 だって、彼の前にいるのは自分の父親の愛人なんだから。 視界にすら入れたくもないだろう。 「父と…別れて下さい」 憎くて仕方ないであろう私に、10代目はそう言って頭を下げた。 膝の上に置かれた彼の拳が微かに震えている。 「…それは……」 無理ですとは言えなかった。 何度も逃げ出した私は、今軟禁状態にあるのだ。 この家だって家光が用意したものだし、私には監視が付いている。 外出が許されているのも買い物ぐらいで、それすらも家光の部下が一緒に行く事が条件なのだ。 「…貴方の事を色々と調べさせて頂きました。ですから、貴方が置かれている状況は分かっています」 そう言って苦々しい表情をする彼の拳は固く握られている。 という事は、私と家光の出会いから現状まで全て知っているのだろう。 ボンゴレの力を使えば、私についての情報等すぐ手に入る。 「僕に考えがあります。付いて来てもらえますね」 何かを決意した彼の目は、哀しい事に、私が愛している家光を彷彿させた。 →next [*前] | [次#] |