『愛してる』


そう彼が口にする度、私は罪悪感で胸が一杯になってしまう。

どんなに強く抱きしめられても、幸せや嬉しいという気持ちより、悲しくて怖くてもどかしくて…彼の腕を払いたくなってしまう。

それでも、貴方を愛しいという気持ちに嘘などなくて、離れなければならないと思うのと同時に離れたくはないと思ってしまう。

私は貴方の全てを愛しているのよ。

でも、同じくらい恨んでもいるの。

何故、私を受け入れたりしたの?

何故、私を突き放してくれなかったの?

貴方にそうさせてしまったのは私だというのに…。

貴方を心の中で責めながら、私は貴方の腕の中で涙を流すしか出来ない。

貴方だって分かってるんでしょ?この関係の終焉がすぐそこまで来てるってことぐらい。

もうすぐ彼がこの地にやって来る。

そうしたら、私達の事が彼の耳にも入ってしまうわ。

その時、貴方は彼にこの事を何て話すつもり?

これ以上貴方の傍にいたら、本当に私は貴方から離れられなくなってしまう。

そうなる前に、貴方から逃げようとしたけれど、貴方は許してはくれなかった。


『誰が何と言おうとも、俺はお前を手放すつもりはない』


貴方から何度も逃げ出した私。

貴方はその度私にそう言い聞かせた。

私の世界には貴方しかいない。

でも、貴方はそうじゃない。

貴方には…、貴方の帰りを待っている人がいるじゃないの。

もういいの。

この世界を捨てる覚悟は出来てるわ。

だから、後は貴方が私の手を放すだけ。

ほら、貴方にだってカウントダウンが聞こえているでしょ?

私を愛してくれて、ありがとう。


 ◇◆◇


ある晴れた日の昼下がり。

部屋に響く訪問者を知らせるベルの音。

それは、カウントが0(ゼロ)になったという知らせでもあった。



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