「名字先生、おはよーごさいまーす」 「おはよう、廊下は走らないようにね」 「ハーイ!」 返事をしたものの、楽しそうに私の目の前を駆けていく生徒達。 目指す職員室には勿論銀八もいる。 けれど、ここでは動揺を見せてはいけない。 ここにいる間は女ではなく、先生でいなければならないからだ。 「・・・ヨォ」 「あら珍しい、高杉先生が遅刻しないなんて」 「うるせぇ」 晋助も私や銀八と同じく、銀魂高校の教師をしている。 しかも保健医――白衣を着ているだけでセクハラな気がする。 職員室の前まで来た時、眠たそうだった晋助の表情が急に険しくなった。 その場の空気が凍る。 見なくたったわかる。 その視線の先には間違いなく――銀八がいる。 「・・・っ、「行くぞ、名前」・・・」 銀八が何かを言おうとしたのを遮って、晋助は私の手首を掴み職員室に入っていく。 「おはようございます、・・・坂田先生」 私は銀八の顔を見ることなくそれだけを告げて、晋助と共に職員室に入った。 私と銀八の事は私的な事であり、職場に持ち込んではいけない。 これは最低限のルールだ。 けれど、坂田先生の返事が聞こえてくる事はなかった。 記憶を閉じて (そうじゃなければ、私はここにはいられない) →next |