寝室のドアを開けると、その音に驚いた一組の男女と目が合った。


「・・・っ?!・・・名前、なんで・・・・・・」

「きゃあぁっ?!」



「・・・・・・・ただいま、お取り込み中失礼」


呆然と私を見る彼氏―――坂田銀八。

そして女は急いでシーツを掴むと、露になっていた胸元を隠す。

嫌でも私の視界に入る彼女の胸元にいくつもある紅い印。


「・・・名前、っ、違う・・・これは・・・」

「言い訳なんて聞くつもりない」


銀八の言葉を遮りそう言えば、彼の瞳が揺れた。


「荷物を取りに来ただけだから、心配しなくても直ぐに出ていくわ」

「名前・・・、ちょっと待てって、ちゃんと話し合っ・・・・」


「彼氏と自分の学校の生徒とのセックスを目の当たりにして、今更話す事なんてない」

「・・・っ」


そう。銀八と今ベッドに一緒にいる女――いや、女の子は私と銀八が勤めている学校の生徒なのだ。

私と銀八の左手の薬指にはお揃いのシルバーリングが嵌っている。

私達の関係は学校内でも公認されていた。

今にも泣きそうなその子も、勿論知っているだろう。


「ご、ごめんなさい・・・名字先生・・・・・でも、私・・本気で銀八先生の事を・・・」


けれど、知らない事も勿論ある。


「貴方には悪いけど・・・その子以外の生徒ともそういう関係になってるでしょ?・・・私が気付いてないとでも?」


私のその言葉を聞いた途端、その子は泣き叫んで銀八に問い質していた。「どういう事?!」「私の事、愛してるって言ってくれたのは嘘なのっ?!」そんな声がする寝室を後しにて、私は薬指のシルバーリングを外してゴミ箱に投げ捨てた。

背後から銀八が私を呼ぶ声が聞こえてきたけれど、扉一枚隔てただけなのに、やけに遠くから聞こえてくる。

おそらく、それこそが私と銀八との間にできた心の距離なのだろう。



刺し貫いた刻
(後は荷物を持って出ていくだけ。修羅場はどうぞお二人で・・・)



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