「ククッ…、暫く見ねぇ間に、随分と男前になったんじゃねぇの」

「そうですねィ、俺に土下座して感謝しなせぇ」

「オイィィィッ!お前等よくそんな事が言えるなぁっ!!」


銀八は横たえていた上半身をガバッと勢いよく起こした。

その顔面は腫れ上がり、大層可哀想な状態になっている。痛てぇと呟く銀八を尻目に、沖田と高杉はニヤリと口元だけで笑った。

今、三人がいるのは屋上だ。既に授業も終わり、校舎に残っている大半の生徒は部活動に励んでいる。


「まぁ、自業自得だろ」

「あの事がバレてクビになるよりはマシってもんでさァ」

「………んな事、言われなくてもわかってるっつーの」


“あの事”――それはキレた銀八が沖田に暴力を振るった事を意味している。

どう考えてみても全面的に銀八が悪い。当人もそれを十分わかっているから、文句を言うものの沖田の好きな様にケジメをつけさせた。

その結果、銀八は見るも無惨な姿になってしまったのだが…。


「それにしても、お人好しですねィ…名字先生は」


沖田はそう呟きながら屋上のフェンスに肘をつき校庭を見下ろした。その視線の先には、今話題に上がった名字名前の姿があった。

この出来事を察して保健医である高杉を屋上に寄越したハズなのに、何事も知らないかの様に普段通り学校を後にしようとしていた。


悔しい…。


そんな彼女の背中を見送りながら、沖田はふとそんな事を思った。

思い起こせば、彼女はいつだって自分の前では取り乱すことはなかった。銀八の浮気現場に連れて行った時も、二人が別れたと知って会いに行った時も、いつだって彼女は、自分が知る名字先生のままだった。

そのまま名字先生を見送っていれば、見覚えのある車が視界に入ってきた。その車に乗る人物も待ち人を見つけたらしく、車から降りてくる。

これも自分の計算の内に入っていたというのに、こうも面白くないのは何故だろうか?


「…テメェはこれで満足か?」


いつの間にか隣にいた高杉が煙草の煙を吐きながら、そう独り言のように呟いた。



哀れみを含んだ言葉
(こんな気持ちになる意味なんて、知らないままでいたかった)



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