「・・・何故こうなる前に、俺に相談しなかったのだ」


名前がここから去って暫くした後、背後から聞こえてきたお馴染みの声。


「・・・何しに来たんだ、ヅラ」

「ヅラではない!桂だっ!!」


何故ここにコイツがいるのか、などと聞かなくても理由は分かっている。

さっきまで名前と眺めていた海を、今度は桂と共に無言のまま眺めた。


「ここに来るのも久々だな」

「そーかよ・・・」


いつも一緒にいるあの得体の知れない生物を連れず、一人でここにやって来たヅラ―もとい、桂。

こんな姿を見られたくないという俺の気持ちを、ヅラなりに察したのかもしれない。


「こんな俺の――別れた男の心配なんかしてんじゃねぇつーの」

「だからといって、“友”には変わりないだろう」


確かに恋人同士でなくなった俺と名前の関係。

ただ、別れたばかりで未練タラタラな俺にしたら“友”という関係をそう簡単に受け入れる事は無理な話だ。


「・・・わざわざ傷口に塩を塗り込んじゃねぇよ」

「フンッ、嫌味の一つぐらい言いたくもなるわ」


そりゃそうだ。

仮に逆の立場なら、俺はヅラを思いっきり殴り飛ばしていただろう。


「つーか、こういう場合はさぁ、女の側にいてやるもんじゃねぇの?」


憎まれ口をたたく俺にヅラは心底呆れたように溜め息を吐いた。


「名前は昔から人前では泣かないだろうが・・・、泣くとしても銀八――お前の前だけだった」


昔からお前は名前にとって特別な存在だった。

と、そう続けたヅラ。

その言葉に止まったハズの涙が溢れだした。



置いてゆかれる悲しみ
(そんな事にさえ気付けなかった俺自身が、情けなくて許せなかった)



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