「―・・・よぉ」


俺が振り返ってそう言えば、名前は泣きそうな顔で笑った。


「これ以上休んでると、クビになっちゃうよ・・・」

「そりゃマズイなぁ・・・」


砂浜で腰を下ろしていた俺の隣に、名前も同じ様に腰を下ろす。

チラリと名前の顔を盗み見れば、名前は打ち寄せる波をじっと見つめていた。

そんな彼女の横顔を見て、ふと思う。


――きっと名前も俺と同じ事を思い出してんだろうな・・・。


ガキの頃、名前と初めての喧嘩で仲直りしたのもこの海。

中学生の頃、見慣れていた名前の何気ない仕草に初めてドキッとしたのもこの海。

高校生の頃、名前に告白したのも、返事をもらったのもこの海で・・・。


初めてのキスもこの海でだった。


だからこそ、俺はこの場所で名前が来てくれるのを待っていたんだ。



以前なら、躊躇う事なく名前の肩を抱き寄せる事が出来たのに、今は・・・。

自業自得だと分かっていても、心が締め付けられる。


「なぁ、名前」

「何?」

「―・・・いや、何でもねぇよ」


言うべき事は決まっている。


名前がここに来るまでの数日間、俺はずっとその事を考えていたし、答えを出した。

そう思っていたのに・・・。

けれど、実際にこうしてくるべき時が来たというのに、いざとなれば名前を失う事が怖くて仕方ないのだ。

自分がこんなにも情けない男だとは、こんな事になるまで知らなかった。



この一瞬が永遠でなくとも
(少しでも長く、こうして隣にいたいんだ)



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