晋助の車が私のマンションの前で止まる。


「後悔しねぇんだな?」


私が車を降りようとした時、晋助にそう問いかけられた。


「・・・・もっと早くこうしなかった事を後悔しているわ」


私は晋助と視線を合わせて、そう答えた。

そう、私は既に後悔しているのだ。――彼とちゃんと向き合わなかった事。

そうすれば、こんなにも傷つく事も傷つける事もなかったはずだ。

私の心意を、決意を、覚悟を分かってくれたのか、晋助がクシャっと私の髪を撫でた。






「本当にあの馬鹿はいんのか?」

「いるよ。出張の予定を1日遅く教えてるから、アイツは私が明日帰ってくると思ってるはずだしね」


部屋の鍵を開ける前に、目を瞑り小さく深呼吸をする。

この扉の先に待っているモノ―――それは私が生きてきた二十数年の中で1番大切にしてきたモノを、一瞬で壊してしまう。

いや、もう既に壊れていたという事実を実際に目の当たりにするにすぎない。

音を立てないように玄関のドアを開くと、そこには私のものではない女物の靴が一足。


(・・・・・やっぱり・・・ね)


そして微かに聞こえてくる女の喘ぎ声とギシギシとベッドが軋む音。

予想していた事とはいえ、その事実は容赦無く私の心に突き刺さってくる。

僅に震える自分の手をギュッと握りしめた。


「・・・・・・名前」


と、晋助が私の名前を呼んだ。

その声色が、晋助の視線が大丈夫だと安心しろと私に告げていた。


「そこで待ってて」

「・・・・あぁ」


晋助を玄関で待たせて、私は寝室へと歩きだした。



怯えてなんていないわ
(だって、哀しいくらい予想通りなんだもの。これから先の事だってそうなんでしょ?)



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