ガンガンと響くような痛みが頭を襲う。

目の前にいる彼女は今も私に向かい叫び声を上げ続けているというのに、その言葉はただ耳を通り過ぎていくだけだった。


「・・・っ、何とか言いなさいよぉっ!」


ただ黙って彼女を見つめていた私に、彼女は更にヒステリックになって泣き叫ぶ。


――それでも、私の口が開く事はなかった。


込み上げてくる想いはあるというのに、それをどう言葉にすれば分からない。


「そんな風に大人ぶって・・・、名字先生はズルイよ、ズルイッ!!」


そう叫んで、彼女は片手を勢いよく振り上げた。


――叩かれる。


けれど、私は彼女の振り上げた手を掴んで止めようとも、また避けるつもりもない。

彼女にはそうする権利があると思ったからだ。


パシンッ


彼女の手が私の頬を打った音が辺りに静かに響いた。


「・・・な、なんで・・・」


自分自身の行動に驚いているらしく、彼女は唖然と震えている自分の手の平を見ていた。


「もう、それぐらいにしておけ・・・」

「・・・っ?!」


嗅き慣れた煙草と香水の香り。

まだどこか唖然としていた彼女は、自分の背後から聞こえてきた声にビクッと肩を小さく震わせる。

彼女の手首を掴んだ後も、晋助はじっと私を見つめていた。

その表情は険しい。


「・・・コイツは俺が預かっておく」

「有り難う・・・、高杉先生」


彼女が私の頬を打つ前から晋助はこの場所にいた。

けれど、私が彼女にしたいようにさせたいと・・・そう思っていたのを晋助も分かっていたから、ただじっと私達の様子を見守ってくれていたのだ。


「バカが・・・」


その一言だけを残し、晋介は彼女を連れて保健室へと歩き出した。

私はただその2人の背中を見送った。



幼さと純情と純粋と
(彼女の叫びが私の心に木霊する)



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