まるでこの部屋だけが世界から切り取られたようだった。

晋助は倒れたソファーを起こして、何も言わずに腰掛けた。そして煙草に火を付ける。

フーっと吐き出された白煙がゆらゆらと漂う。


「・・・名前、・・・名前」


そんな中、銀八は震える声でただ私の名前を繰り返す。

うつ向いていて彼の表情は見えないが、初めてこんな銀八を見た。

彼はいつだって飄飄としていて、余裕があって、強い人だった。

けれど、今の銀八は――私が知る銀八とは全く別人のように見える。

銀八にだって弱い部分がある。

そんな当たり前な事をこうして目の当たりにするまで気付きもしなかった私は、やっぱりちゃんと彼と向き合えてなかったと実感する。


「・・・銀八、ごめんね」

「・・・っ、名前」


ここまで彼を追い詰めたのは、間違いなく私なのだ。

震える銀八をそっと抱き締めた。

銀八は縋り付くように私の背中に腕を回す。

それでも彼の震えは止まらなくて、少しでも落ち着くように出来るだけ優しく撫で続けた。


「私ね・・・どうしていいか、分からなかった」


本当ならば、銀八の浮気に気付いた時に私の正直な気持ちを彼にぶつけるべきだったのだ。

けれど臆病な私はこんな事になるまで、それすらも分からなかった。

今更だけど、私の気持ちをちゃんと銀八に伝えよう。

私は間違いなく銀八を愛していたのだから・・・。



切なる鼓動を聞いて
(私はまるで懺悔をするように言葉を紡ぐ)



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