沖田君はニヤリとしたまま言葉を続ける。

「廊下から丸見えでした」とか「雌豚の声がよく聞こえた」とか・・・。

けれど、次第に銀八の空気が冷たくなっていく事の方が気がかりで、沖田君の言葉が私の耳に届く事はなかった。


「・・・ホント、余計な事してくれちゃって」


銀八はそう呟いてニヤリと笑った後、沖田君に殴ぐりかかる。

それは見事に沖田君の頬へと当たり、彼の体は周りの物を巻き込みながら壁の方へと飛んでいく。

微かにうめき声を上げたが、沖田君の視線は鋭く銀八を睨み付けたままだった。


「沖田君っ!坂田先生、いい加減にして下さい!!」

「だからぁ、いつもみたく銀八でいいって・・・」


沖田君に駆け寄り、私も銀八を睨み付けた。

これ以上誰も巻き込みたくはなかったのに・・・。

そんな私の願いは銀八によってアッサリと壊されてしまった。


「まぁ、お前の考えてる事なんてお見通しなんだけど・・・さ」

「所構わず盛ってるアンタが悪いんでさァ」


沖田君が体を起こそうとした時、銀八はまた私の手首を掴み上げ、そのまま後ろへと投げ飛ばした。

それから沖田君の鳩尾に何発も蹴りを入れる。

ドカッドゴッと鈍い音が部屋に響く。


「あー、これでやっと名前と話が出来るな」

「お・・・沖田・・・君」


震える声で沖田君の名前を何度も呼ぶが、沖田君はピクリとも動かない。


「この間、"コレ"忘れていっただろ?大事なモンなんだから、しっかりはめておかないと・・・」


銀八は床に座り込んだままの私の左手を取ると、その薬指にアノ指輪をはめた。


「銀八、アンタ何考えて・・・んっ」


銀八の唇が私の唇と重なる。

抵抗しようとしても、両手首をガッチリと掴まれていて、身動きがとれない。

次第に荒くなっていく口付け、息苦しくて口を開けば銀八の舌が入ってくる。

そしてそのまま床に押し倒されてしまった。



記憶の底に横たわるのは
(ポロポロと流れる涙と共に、大切な何かも流れていった)



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