あの日、名字と2人で会った日から俺の携帯のアドレスが1つ増えた。


――名字名前、その名前が・・・。


近藤さんやお妙、他の奴等との食事の日程が決まったら連絡するからと、半ば強引に聞き出した。

だだ俺が名字のアドレスを知りたかっただけで、とっ嗟にそんな事を口走ってしまった自分自身に驚いた。

近藤さんとお妙の話も嘘だ。

あの頃よりは気持ち進んでいるかもしれないが、相変わらずな感じであの2人がデートするなんてあり得ない事だ。

そんな下らない嘘を吐いてまで名字と2人きりで食事したというのに、聞きたい事も言いたい事も何も話せなくて、結局差し障りのない話しか出来なかった。


「ハァ〜」


煙草の煙と共に俺の口から吐き出されるのはため息ばかり。

普段や心の中じゃ呼び捨てなのに、いざ本人を目の前にすると"名字先生"と呼んでしまう。

卒業したってのに、これじゃ名字との距離が縮まるはずもなく、2人きりだというのに名字は先生という立場のまま。

バイト先だって、俺が高校生の頃名字が好きでよく行く店だと言っていたから、あの店に決めたというのにすれ違ってばかりで一度も会った事はない。

けれど、あの頃よりは僅かだが進展したハズだ。

俺はもう生徒ではないし、こうして名字の連絡先も入手出来た。

そして、一番の問題点だって解決した。

総悟が言っていた通り、名字と銀八は別れた。

あの頃、授業中だというのに銀八は名字とのノロケ話ばかりしていた。

2人が別れた理由は知らないが(総悟が言ってたかもしれねぇが、全く覚えてねぇ)、俺にとっては"別れた"という事実があればそれだけでいい。


「・・・連絡・・・してみるか」


親愛なるチキンハート
(会いたい・・・なんて、言えそうにねぇけど)



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