放課後、俺は銀八がいるであろう国語準備室に向かって歩いていた。


「チッ・・・」


すれ違う生徒は誰一人として俺と視線を合わそうともせず、そそくさと去って行く。

それもそのハズ、俺は最高に機嫌が悪いし、気分も悪い。


――ガラガラッ


目的地に着けば、ノックもせず力任せにドアを開いた。


「あぁ〜?何か用ですか」


ヤツのやる気のない声が、今日はいつも以上に感に障る。


「テメェ、どういうつもりだ」

「・・・・何の事ですかァ、高杉センセ」

「名前の事に決まってるだろうが」


俺が名前の名前を口にした瞬間、銀八の視線が鋭く鋭利なものになったが、それも一瞬の事で直ぐにいつものやる気のない目に戻る。


「だって俺、名前と別れてないし、別れるつもりもないし」

「テメェ、あんな事しといてんな事が言えるな」

「用はそんだけ?ならサッサと帰ってくんない」


「お前にそんな事言われても、説得力ないしぃ〜」とケラケラ笑う銀八。

俺は怒りのあまり、銀八の胸倉を掴み上げた。
にもかかわらずヤツは顔色一つ変えず、まるで犬でも追い払うかのようにシッシッと右手を動かすだけだ。


「名前はこれっぽっちもテメェとやり直すつもりはねぇよ」


俺がそう言うと、銀八はハッとバカにしたように鼻で笑った。


「高杉さんよぉ、アンタが知ってんのは幼なじみとしてだけでしょ?俺が知ってんのは"女"の名前なの・・・」


銀八のその言葉に、僅かだが掴み上げている右手がピクッと反応する。


「俺だけが"女"の名前を知ってんの、・・・名前は絶対に俺んとこに戻ってくる」



響いた音は乾きすぎて
(そんな事言われなくても、哀しいくらい知っている)



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