笑顔でごり押し


「―うん。私は大丈夫だから、そんなに心配しないで。それじゃ、おやすみなさい」


そう電話を終えて、私は苦笑しながら小さな溜め息を吐いた。

電話の相手は笹山さんで、私の体調を心配して携帯にかけてきてくれたのだった。仕方ないこととはいえ、あんなにも心配されるのは何だかくすぐったく感じる。


(さて、どうしようかな…)


私の視線の先には幸村君と柳君、そしてさっき私に話しかけてきた女の子達。

あの重苦しい雰囲気が嘘のように、今彼女達は笑いあっている。

というのも、納得していない幸村君達に「何でもない」と笑顔でごり押しし続けた後、かなり強引に話題を変えた。

自分でもかなり苦しいとは思ったけれど、オバチャンはそんな細かい事をいちいち気にしない生き物なんだ!(自分で言って悲しくなってきた…)

用件は済んだんだけど、あの中に戻るのもなんだか気が引ける。

彼らが笑いあってる時点で、私の役割は終わっていると思うし、土産コーナーにこれといって買いたい物があるわけでもない。


「…よしっ」


部屋に戻ろうと踵を返すと、目の前に広がったのは見慣れたジャージ。不思議に思いながらも、視線を上げると、今日一日よく見た顔が私を見下ろしていた。


「戻らんのか?」

「…仁王君」


何処に?なんて聞かなくたって、彼の視線でわかる。

けれど、何故そんな表情をしているのか、さっぱりわからなかった。――いや、いい表情じゃないということはわかった。

高校生がする顔じゃないでしょ。末恐ろしい…。


「時間が時間だし、部屋に戻るだけだよ」

「ふーん、幸村達のことはええんか?」


私の顔を覗き込む仁王君、ってか、顔が近い!近いよっ!!


「…なら、仁王君が幸村君に私はもう部屋に戻ったって伝えておいて」


動揺しているのを悟られないよう、にっこり笑って仁王君に告げる。

いい雰囲気に水をさすのもなんだし、かといって、何も言わずに部屋に戻るのもどうかと思っていたわけで、そんな時にタイミング良く仁王君がいてくれた。

いやぁ、助かった。




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