杞憂であってほしかった


彼女―名字さん―の部屋に行ってみたが、ノックをしても返事が返ってくることはなかった。

今日一日一緒にいたけれど親しい友人がいるような感じはしなかったから、部屋にいると思ったのだけれど…。


「…と、なると」

「おそらく土産を物色中、といったところか」


パタンとノートを閉じて柳が呟く。自分の予想が外れたせいか、その表情は若干不機嫌そうだ。…まぁ、俺だから気付けたんだろうけど。


  ◇◆◇


目的地に着いたのはいいけれど、途端に感じる違和感。ザワザワと騒がしく、そのざわめきから感じる雰囲気は決していいとは言えないものだった。


「あ〜、あの人捕まっちゃってるよ」

「どうする?誰か呼んでくる?」


俺達に気付くことなくヒソヒソと話す彼女達の視線の先にいるのは、

(名字さんと…)

名前は知らないが、よく見かける3人の女子。その3人は俺達が中学の時からテニスコートで熱心に応援してくれていて…というか、俺が彼女達を覚えている理由は、あまりにも大きい声で声援を送ってくるから目立つし、何かにつけて俺達に話しかけてくるからだ。

自然と出てくる溜め息。

今までにもこういうことが何度もあった。俺達を応援してくれるのは嬉しいけれど、彼女達のこういった行為は迷惑だ。

まぁ、今回俺達と名字さんが一緒に行動すると決まった時から、こういうことが起こるんじゃないかと思ってはいたんだけれど…。

見てしまった以上、名字さんをこのまま放っておくわけにはいかない。

俺は彼女達の方へと歩き出した。




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