飛び出した…まではよかったものの何も考えていなかったので、何処で何をするべきなのか分からず、余計に焦ってしまう。 ロビーで一人佇む私…。 なんかより可哀想な奴になってない?! そんな時、ふと目にしたのはお土産のコーナー。両親や篠山さん。お手伝いさん達や侑士君の顔が自然と浮かんでくる。 「…せっかくだし、ね」 一泊するだけだというのに、皆が大騒ぎしていた事を思い出して笑いそうになってしまった。 ◇◆◇ 荷物を置いた後、部屋から出てみれば案の定そこに柳の姿があった。 「…行くのだろう」 疑問符の付かないその言葉の返事に俺は笑顔で答えると、柳は呆れたように溜め息を一つ吐いた。 「いると思う?」 「その確率が一番高いとは思うが、…まだ情報が足りない」 誰が、何処に――なんて言葉は柳には必要ない。 目的地に向かって歩く俺の隣にやって来て、同じ様に歩く柳。何気なく柳に視線を向けると、目が合った。…どうやら、このタイミングすら柳に読まれていたようだ。 「悪趣味だな」 「フフ、お互い様、だろう?」 確かに、と柳が頷く。その表情はどことなく楽しそうで、もしかして俺もそんな顔をしているのかもしれない、とそう思った。 エレベーターに乗り込み、目的の階数のボタンを柳が押す。ゆっくりと動き始めるエレベーターの中で、今日一日の事を思い出す。 真田とブン太。この二人にあんな表情をさせられる者がいるなんて…。 特に俺を驚かせたのは真田だった。一泊するということに浮かれている生徒の言動や行動に、いつもなら例の言葉で怒鳴りつけるというのに、今回はグッと我慢し、隣にいる彼女――名字さん――の様子をそっと伺っていた。そして、一つ息を吐いてから、怒鳴ることなく注意していたのだ。 名字さんを驚かせないようにという、真田なりの配慮なのだろう。 また、そんな真田を異様に意識しているブン太。使い慣れない敬語で名字さんに話しかけている姿に、何度も笑いそうになってしまった。 フフッと笑い声が漏れるのと同時に、エレベーターが止まる。 「さあ、行こうか」 この関係に俺が加わったら、より面白くなると思わないかい? →next |