居た堪れない雰囲気


「彼女が・・・名字だ」


弦一郎が先日ファミレスで話していた例の人物。

彼女は弦一郎の隣で、身長差のせいか見上げる様に俺達を見ていた。


(・・・ほう、やはり彼女が名字名前か)


この学校では珍しく弦一郎と親しそうに話していた姿を見て、概ね彼女であろうと予測はしていた。

しかし、少なくとも俺は弦一郎から話を聞く以前から彼女の事を知っていた。


――何故なら、彼女が入学試験でトップの成績だったからだ。


しかし、彼女はある意味学校から特別待遇で迎えられる事や、入院していた為中学での成績が不明であった事もあり、2位である俺が新入生代表を努める事となった。

その事を知る者は限られている。


「初めまして、名字名前です」


多少戸惑いを見せながらも、名字は俺達にそう言って一礼した。


(なるほど・・・)


彼女の物腰から育ちの良さが伺える。

情報として、彼女が名のある令嬢だとは知ってはいたが、実際にこうして目にしてみると、改めて納得させられた。

順に挨拶していく俺達に同じ様に挨拶をしていく彼女からは、戸惑っているのは感じるがそれ以上の物を感じない。


(珍しいな・・・)


他の女生徒の様に頬を赤らめたり脅えたりせず、真っ直ぐ俺達の目を見て話をしてくれる。

そんな当たり前の事が、なんとなく嬉しく思ってしまう。

そう思ったのは俺だけではないらしく、いつも以上に穏やかな空気が俺達を包んでいた。


「・・・丸井、どうした?」


弦一郎のその言葉に丸井を見てみれば、戸惑いと惚けが入り混じった表情で彼女―名字の顔を唖然と見つめていた。


「早く自己紹介せんか。お前の番なのだぞっ!」


弦一郎の怒鳴り声に、隣にいた名字はビクッと体を震わせて驚いた。


「弦一郎、急に大きな声を出すものじゃないよ」

「そうだな、名字が驚いているぞ」


精市の後に俺もそう口にした。

弦一郎が名字に「すまない」と謝罪の言葉を口にしようと口を開いた時だった。




「俺、ま、丸井ブン太って・・・、い、言いま・・・ちゅっ!」





「「「「・・・・・・・・・・・」」」」


勢いよく叫んだように挨拶した丸井だったが、勢いよすぎて噛んでしまったようだ。

一瞬にして辺りが居た堪れない雰囲気に包まれてしまった。



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