我慢?それは無理みたい


体育館にはパイプイスがクラス別に並べて置いてあった。

入学式の時にも思ったが、この学校は凄い生徒数だと改めて実感した。

私が教室で物思いに耽っていたせいか、はたまた、私が歩くのが遅かったせいか、既に殆どの生徒がイスに座っていた。


「名字?」

「あっ、ゴメン」


体育館に入った途端、向けられた視線に戸惑ってしまった私に、真田君が不思議そうに声を掛けてくれた。

さりげなく私を空いている席へとエスコートしてくれる真田君。

けれど、そういう事に慣れていないせいか、若干動きがぎこちない。


「私のせいで、遅れちゃって・・・ゴメンね」

「・・・っ、いや、まだ始まるまで時間がある。気にしなくていい」

「有り難う」


真田君の隣に座り、小声でお礼を言うと、真田君は私から視線を外して返事をしてくれた。

顔は見えなかったけど、赤く染まった耳が私の視界に入ってきた。


(可愛いいなぁ・・・)


真田君のそんな姿に、思わず笑みが溢れてしまう。


「ムッ、何がおかしい?」

「真田君が、可愛いくて・・・つい」

「なっ!!」


思った事を正直に口にすれば、真田君はそんな事を言われるなんて思いもしなかったらしく、大声を出して驚いてしまった。

その真田君の大声で、体育館にいる生徒達の視線が一気に私達へと集まってしまった。


「・・・ゴホンッ」


わざとらしく咳をして、何事もなかったかのように振る舞う真田君の姿に、私は声を出して笑いそうになってしまった。


「名字、笑うな・・・」

「ご、ごめん・・・っ」


我慢しようと思ったけど、やっぱり無理でした。



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